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最新のRをカモる「マインズR34GT-R」! 伝説のチューニングカーを分解してわかった「速さの秘密」

マインズが記録を作りまくったR34GT-R がレストアで見せた裏側

 R32の登場以来、いくつもの金字塔を打ち立て、常にGT‒Rチューンの王者として君臨し続ける神奈川県横須賀市のチューニングショップ「マインズ」。ショップという枠を越え、コンピュータチューニングも得意とする同社。クルマ好き、チューニング好きなら一度はその名を耳にしたことがあるだろう。同店のデモカーは、いつの時代も見た目はノーマル風ながら「走るとすごい」というスタイルを貫いている。派手なエアロは一切装着せず、エンジンルームもいたって普通。しかし速い。今回は「本デモ」と呼ばれるR34 V-spec N1のボディレストアにおいて、作業担当の「ガレージヨシダ」が見た、隠れた凄さについて迫る。そこにはマインズ新倉通蔵代表のポリシーが貫かれていた。

シンプルな外観にこだわるマインズの隠された苦労

「R32では筑波サーキットの1分切りを最初に達成し、当時流行ったゼロヨンや最高速アタックでもそれなりの記録を残してきました。次に出たR33は大きいとか重いとか世間でいろいろと言われていましたが、クルマとしては着実に進化していましたし、筑波でも確か57秒台に入ったと記憶しています。ウチにとってGT‒Rは大事な存在ですし、これからも一緒に成長してきたという思いもあります」と語る新倉通蔵代表。 

 90年代中盤、GT‒Rのチューニング熱はピークに達し、パワー競争の様相を呈していたが、マインズだけはノーマル然としたデモカー作りに徹していた。新倉代表はその理由について「とにかくクルマはシンプルにしたい。見た目のインパクトではなく中身で勝負する。それがウチのスタイルですし、内装を外したりロールケージを入れるのもNG。自らレギュレーションを作って、その範囲の中で最速のクルマに仕上げてきました」と説明する。 同店では現在、R35 (MY11)とBNR34 V-spec N1の2台をデモカーとして所有している。後者はいわゆる「本デモ」と呼ばれる車両で、各地のサーキットで数々の記録を打ち立ててきたマインズの代名詞とも言えるデモカーだ。

走行1万kmのほとんどがサーキット走行だった

 じつは、かねてより「本デモをフルリフレッシュしたいと」と、新倉代表は考えていた。いよいよ作業に取りかかったのが2019年11月の話である。サーキットでのタイムアタックやタイヤテストなどでかなり酷使してきたボディを一度ドンガラにして作り直す。内装はスポーティでありながらドレッシーなイメージにして、今風にリニューアル。ボディのリフレッシュは奈良県の「ガレージヨシダ」が担当。同店の吉田光造代表とは以前から付き合いがあり、リペア作業を快く引き受けてくれたという。  ちなみにマインズ本デモR34の走行距 離は僅か1万km程度。ただし、ほぼ100%が「サーキット走行」だという。 

「ボディの色味は若干黄ばんできましたし、下まわりやホイールハウス内などは 塗装が剥がれて錆が出始めている部位もあります。これを機にガレージヨシダさんに託してすべて直してもらおうと考えました」とマインズ中山智和メカニック。常に〝完璧〞を目指してきたマインズが下した新たな決意。そして作業が進むにつれ、ガレージヨシダでは驚愕の事実が次々と明らかにされたのである。

ホワイトボディまで分解して見えた各部の補強

 まずは骨格のリフレッシュを施すべくホワイトボディ状態まで完全分解。 これまで誰も目にすることのなかった「本デモ」の速さの秘密が露わになる!  ノーマル風の見た目でありつつ、サー キットでは数々の記録を打ち立ててきたマインズのR34 V-spec N1。その軽さや速さから〝都市伝説〞まで存在した。「じつは普通のR34よりも寸法が小さい」 「ペラペラに薄いボディを使っている」 など、一般常識では思いつかないような説まで流れていたのである。 

 車両製作から約20年が経過し、この先も「マインズの顔」として良好なコンディションに保ちたいという考えから、ドンガラ状態になるまで丸裸にされた。 施工を担当するガレージヨシダの吉田代表は、マインズのガレージでR34本デモの骨格を目の当たりにし、驚きの表情を浮かべながら次のように語った。

「ボディ補強は想像以上です。溶接の数で言うと、恐らく3000点とか5000点といったレベルではないでしょうか。 しかも、パネルの合わせ目などは、ほぼ半自動溶接で隙間が塞がれています。その割に錆も少なく、下まわりの状態は悪くない。ほとんどがサーキッ ト走行のみとのことですし、恐らく雨の日の走行も極端に少なかったのではないでしょうか」

 これまで数多くのGT-Rをリペアしてきた吉田代表に「見たことがない」と 言わしめる本デモの骨格。これほど溶接増しをしているのに、なぜフロントのストラットタワー周辺は補強が入っていないのかと思ったそうだ。ここにもマインズのこだわりがあり、「じつは、ストラットまわりも継ぎ目には溶接が入っています。ただ、新倉がこれみよがしの見た目を嫌うため、 溶接痕の盛り上がりをすべて削り落とし、 ノーマルと同じようにシールを施して隠しているのです」と中山メカニックが真相を教えてくれた。

プロでも気付かない「純正風」の作り込み

 板金塗装のプロでさえ、一見してわからない驚愕の作り込み。「ノーマル」の外観を貫くマインズの凄みを垣間見た瞬間であった。 リフレッシュ後も機会があれば走らせる。キレイになったからといって飾っておくつもりはないという。別の個体で作り直しても本デモと同じにはならない。

 ガレージヨシダに持ち込まれたマインズの本デモは、ガラス類が外された後にボディ専用治具(通称: カーベQ)に固定され、現状の確認と施工内容の検討をスタート。

「隅々までよく観察すると、マインズさん独自のスタイルを貫いているな、という印象です。補強の仕方は正解が導き出しにくいものですが、このR34は結果を出しているクルマですし、勉強になる素材を与えてもらって光栄です。ボディ下部にはアンダーコートがなく、鉄板の継ぎ目はほぼ溶接されている状態。各部を溶接をした後に塗装が施されています

が、下地処理をせずにホワイトの塗装を吹いた状態ですね。重くなることを嫌い、少しでも塗料を減らしたかったことがうかがえます。一部メインフレームやホイ ールハウス内に塗装剥がれによる錆が出ていますが、根が張って腐食しているわ けではないので、状態としては悪くありません」と吉田代表は分析する。

剛性アップと共にグラム単位で軽量化を徹底

 他にも驚異の発見は続く。ボルトやナットはできる限り小さいサイズに変更し、トルクの掛からない部位はチタンやアルミに置き換え済み。唯一剛性アップのために追加されたリヤストラットを繋ぐバーは、普段は内装が装着され目にすることはない場所に投入。ボディをバラしたときに車両から降ろされたハーネス類は通常の半分程度しかなく、不要な配線は間引かれ、ECUもそれに対応したスペシャル品が使用されていた。

 そしてフロントのホイールハウス内を覗けば、バルクヘッド側に当て板が追加され溶接留めにされている。リヤ側はホイールハウスの出っ張り部分に当て板を追加し剛性をアップ。リヤシート下部のフロアは、フレーム類はすべて追加の溶接で補強しているが、剛性が不要な部分には手を入れていない。そして通常はボルトナットで固定されているはずのルーフのフレームは、すべて溶接留めに変更。軽量化と剛性アップを図っている。

 伝説となるほどの速さを持っているのだから秘密は必ずある。軽量化と剛性アップ。考えてみれば当然のことなのだが、それを「いかにも」ではなく、純正然としたスマートな佇まいでやり遂げる。もちろん手間も掛かる作業だが、努力は見せずに結果を残す。マインズの貫くポリシーとカッコよさを再認識したのである。

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