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身障者チームの挑戦!青木拓磨、ル・マン24時間本戦に向け最終調整終了

身障者チーム、4時間耐久レースを無事に完走

 車いすレーサーの青木拓磨選手が、障がい者チームである「SRT41」から、ヨーロッパ・ルマン・シリーズ(ELMS)の第3戦「ル・カステレ4時間耐久レース」に参戦した。

 「SRT41」は、実業家フレデリック・ソーセ氏率いるチーム。ソーセ氏は人喰いバクテリアによる四肢切断という事故を乗り越え、そこからレース活動をスタートさせた。2016年にはル・マン24時間レースに出場した経験を持つ。その活動をさらに広げていこうと始まったものがソーセ氏自身が代表となり、障がいを負ったドライバーたちのチームでル・マン24時間レース参戦を目指すというもの。2018年にプロトタイプのマシンでフランス国内選手権に挑戦。その後2019年にヨーロッパ耐久選手権に出場というステップを踏んで、2020年にはル・マン本戦に挑戦するという計画であった。しかしCOVID-19の影響もあって、本戦出場の計画は今年へ1年先送りとなっている。「SRT41」チームに合流する形でル・マン24時間レースに参戦するのが青木拓磨選手である。青木選手は元ロードレース世界選手権(現Moto GP)ライダーで、1998年のシーズン前のテストで転倒し脊髄を損傷。下半身不随となってしまったことをきっかけに、車いすのレーシングドライバーに転身。以後積極的に各種レースへ参戦している。サーキットレースはもちろん、パリダカやアジアクロスカントリーラリーなどにも挑戦してきているのだ。以前からル・マンへの参戦を画策しており、ソーセ氏のプロジェクトに加わることとなった。

 今回参戦となった「ヨーロピアン・ル・マンシリーズ(ELMS)」は2004年からスタートしている、ル・マン24時間レースと同じくACO(フランス西部自動車クラブ)が主催するシリーズである。今シーズンは、第1戦スペイン・バルセロナ(4月17日-18日/4 時間耐久)からスタートし、第2戦オーストリア・レッドブルリンク(5月15-16日/4 時間耐久)を終えて、このポール・リカールはシリーズ第3戦になる。

「SRT41」は、これまでLMP3マシンを走らせてきたが、本戦出場にはLMP2マシンでの走行が必須となった。このため新たなLMP2マシン「オレカ07」を走らせるにあたり、GRAFFチームとジョイントすることとし、チームスタッフの顔ぶれはがらりと変わっている。

 またドライバーラインナップでは、義手ドライバーとして2018年から参加していたスヌーシー・ベン・ムーサ選手がチームから離脱したため、代わりに健常者であるフランス人のピエール・サンシネナ選手が合流している。こういった変更もあるため、本戦に向けたテスト走行というイメージでこのレースを進めていった。開幕戦とこの第3戦に参戦しながらチームの内容を確認したうえで、24時間レースに臨むということになる。

 ドライバーは拓磨選手と同じくSRT41のこのプロジェクトを続けているナイジェル・ベイリー選手(下半身不随)とサンシネナ選手、そして青木選手の3人でレースを行う。ベイリー選手は「クルマはすごくいい。しかし慣れる時間があまりに少ない。もっと走行する時間が欲しい」とコメント。サンシネナ選手は「昔から憧れだったLMP2マシンに乗れることをすごく楽しんでいる。ただ、もっと速く走れるようにやらなければならないことは山ほどある」とそれぞれが走行に対して貪欲である。

 ELMS第3戦の舞台となるのは、南仏・マルセイユ近くのル・カステレ村にあるポール・リカール・サーキット。1970年に設立され、F1やWGP、そしてボルドール24時間を開催したこともある、全長5.81kmのサーキット。この地方独特の強い北風「ミストラル」から名付けられた長さ1.8kmもの直線「ミストラル・ストレート」やその先の高速右コーナー「シーニュ」、そしてさらに右に回り込んでいく「ル・ボーセ」といったコーナーを持つ。ランオフエリアには摩擦抵抗の強い舗装が青や赤の帯状のペイントとなって施されているため、これらの縞模様が特徴的なビジュアルを作り出してもいる。ちなみにこの舗装はコースアウトした際に車両を減速させながら車両がコースに復帰することができるため、レスキュー車両を出動させることなくレースを中断する必要が少なくなる、という効果がある。

 ポール・リカールは青木選手にとって1997年のWGPでの参戦経験(コース改修前)もあるが、このSRT41への加入後に2度、LMP3マシンで走行しており、さらに今回のLMP2マシンでも事前の練習走行にも参加しているため、今回が4度目のル・カステレ入りとなる。そのレースウィークスタートとなる6月3日(木)、隔離期間を経てサーキットに入った青木選手はまずシート合わせを行い、新しくシートを作り直す作業をスタート。前戦、シートが合ってなかったことで非常に厳しいドライビングを強いられたこともあり、ル・マン本戦に向けた準備も着々と進められていった。

手動装置仕様ル・マン専用マシンの実戦確認進む

 4日(金)、5日(土)のそれぞれに練習走行が90分ずつ用意され、3名のドライバーがそれぞれほぼ均等に走行。そして迎えた第3戦決勝のスタートドライバーには青木拓磨選手が抜擢された。交替の時間を短縮するために青木選手、サンシネナ選手、ベイリー選手の順で担当する。今回は4時間の耐久レースということで、40分の走行の後、給油のためのストップ(1分間)を挟み再び40分を走るという各ドライバー2回のスティントで80分ずつ走行する。

 マシンは、他の参戦車両とは異なり、手動装置を使用して下肢での操作が不要となっている。具体的には、アクセル、シフトアップ、クラッチは、ステアリングの裏にあるパドルを使用。ブレーキ操作およびシフトダウンはドライバーの右側に設けられたレバーを使用する。つまり、フィジカル的にもきついLMP2マシンでさらにブレーキ操作中は片手運転を強いられるという。そしてブレーキ操作も、上腕での操作では足の踏力ほど力を発揮できないため、ブレーキを強く掛けられないという。そのためにドライバーは身体を鍛えてはいるのだが、あまり鍛えすぎると狭いLMP2マシンのコクピットで今度は操作に支障をきたすことがあるという難しさを持ってもいる。

 6日(日)午前11時に決勝レースはスタート。途中コース上での車両火災などがありFCY(フルコースイエロー)が出される波乱の展開となったものの、今回も3選手ともに大きなトラブルもなく無事に4時間のレースを走り切った。チーム代表のソーセ氏も「まだまだ他にも課題はあるけれど、2戦ともに完走もできたし、全体的には満足している」と今回の2戦に及んだテスト参戦を評価した。

 当初6月の予定であったル・マン24時間レースは8月21日(土)~22日(日)に開催が決定している。SRT41の84号車は「イノベーティブ・クラス」で参戦する。

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