イタリアが生んだ偉大なる小型車
2代目フィアット500が誕生したのは1957年のことだから約65年も前のこと。生産が終了したのは1975年で、45年以上も前になる。そんな時の流れを感じさせることなく、チンクエチェントやそれを略したチンクと呼ばれて今でも愛されているのはご存知の通りだ。ちなみに呼び方は、チンクなどは最近で、その昔はゴヒャクと呼ぶのが普通ではあった。
開発者自らデザインを手がけていた
購入してからすでに30年以上。オーナー目線でその魅力を整理してみると、まずはなにはともあれ、デザインだろう。デザイナーがいないと言ったら驚くだろうが、
その昔は開発責任者がデザインもやってしまう例はけっこうあって、このクルマはこうあるべき! という強い意志ゆえなのだろう。N360のリヤまわりやバイクを自分でデザインした本田宗一郎と同様だ。
全長約3m、全幅約1.3mというマイクロサイズとキュートなデザインゆえ、ルバン三世では『カリオストロの城』のみならず、テレビのファーストシリーズから劇中車として、目立つアイコンだった。そのほか、ドラマや映画、広告などにも登場することがあるし、うちのもファッション誌の添え物として貸し出したこともある。
ただ、一般の方だと魅力はデザインだけかもしれない。世界的な名車とはいえ、せいぜい街でごくたまに見かける程度で乗る機会はマレだけに仕方がない。ここから先は乗ったら、そして所有したらどんな魅力があるのかを紹介したいと思う。
クルマとの一体感が楽しめる
まずは走りが楽しい。整備がちゃんとしてあればではあるが、アクセルやブレーキ、クラッチはペダルのサイズが小さくて間隔が狭いものの、普通。重たいとか、効かないとかもない。ステアリングはクイックで、シフトもそこそこ入りやすい(1速はノンシンクロなので別)。
運転フィーリングとしてはゴーカートみたいな感じで、ダイレクトでまさにクルマとの一体感が楽しめる。音は空冷だし、各ギヤで引っ張らないと走らないので相当うるさいが、これもまた躍動感としていい雰囲気だ。
また横に乗っても楽しいみたいで(運転ばかりで助手席にほとんど乗ったことなし)、近所の子供が乗せてくれとよく来るが、興奮しながら喜んで帰っていく。ちなみに今時のちびっこにとっては「ルパン三世のクルマ」ではなく、映画の『カーズ』に出てくるルイージのイメージが強いらしい。
窮屈に感じない室内空間
そのほか、車内のパッケージというか、雰囲気も魅力のひとつだ。外から見るとメチャクチャ小さいが、乗り込むと、別に窮屈な感じがしないのが設計のすごいところで、RRゆえ足をキチンと伸ばせることと、キャンバストップが標準装着なので、圧迫感が少ないのもあるだろう。
シートも肉厚どころではなくパンパン。リヤシートはさすがに狭いが、大人ひとり用として割り切って横向きに乗れば逆に楽チンだ。ちなみにリヤシートに乗せるとけっこうな確率で「五右衛門みたいだ」と、みんな喜んでくれる。
車内はデザインもよくて、シンプルなインパネとそこに付くスイッチやメーターまでもしっかりとデザインされているのはさすが。『カリオストロの城』でお馴染みの灰皿ももちろんインパネのド真ん中に付いていて、これもまた乗った人は「映画と同じだ」と感心するポイントだ。
限られたパッケージングの中に詰め込まれたメカニズム
最後にオーナーでも自分でイジらない人にはわからないメカの魅力
空冷ファンの回し方や実質的にマニホールドなしのヘッド直付けのキャブレターは他にはなかなか見られないものだし、同じRRが全盛だった日本の360cc軽たちとはまったく違う手法だ。
また足まわりは限られたなかで最大限に凝ったもので、とくにフロントはリーフスプリングを横にして左右をつなぐことで省スペース化を図っている。それだけでなくスタビライザーの効果も同時にもたせているのはアイディアものだ。
現在はEV車として楽しむこともできる
ただ「パーツは手に入りやすいからいいですね」とよく言われるように、維持のしやすさが魅力のひとつと思われているフシがあるが、最近は品質が極悪なものもある。ないよりましを通り越して、ないほうがましと言ったほうがいいものもあったりするのは余談だが、現実でもある。
まだまだ魅力を言い出したらきりがないが、ベースとしての完成度の高さや素性のよさゆえ、アバルトがチューニングしたり、パーツを販売して自分好みに仕上げることができたのもチンクエチェントの魅力のひとつだし、現在であればEV化してより気軽に楽しめるようになっているのも現代流の楽しみ方だろう。