8.9L直6ディーゼルターボは驚異の750psを発揮する
日野自動車では市販トラックとして大型のプロフィア、中型のレンジャー、小型のデュトロをラインアップしている。ダカールに参戦するマシンはレンジャーをベースに開発されているが、写真を見て分かるとおり市販トラックとはまったくの別モノ。迫力ある佇まいだ。
エンジンは市販車に搭載されている5.1L直4ディーゼルターボの「A05C型」ではなく、プロフィアに採用される8.9L直6ディーゼルターボの「A09C型」が搭載されている。もちろんチューニングが施されており、市販車の380ps/180kg-mに対して750ps/236kg-mという驚異のエンジンパフォーマンスが与えられている。
また、インタークーラーを荷室上部にステーを設けて移設し、空気を導入するエアスクープがレース中には用意されるなど、ダカールマシン故の工夫を凝らしたクルマ作りが行われている。もちろんターボチャージャーも大型化されており、見るからに風量が大きいことが確認できるIHI製がエンジンルームに鎮座する。
全てはダカールを制覇するために
路面状況が刻一刻と変わるラリーレイドを走破するために開発されたシャーシには、捻り剛性が大きく高められたラダーフレーム構造が採用されている。サスペンションは市販車と同様にテーパー形状のリーフスプリングが使われるが、レイガーサスペンション製コイルオーバー式ショックアブソーバや前後スタビライザー、さらに加減速時の車軸の位置と姿勢を整えるトルクロッドが採用されるなど、車体下回りをのぞき込まなくてもダカールを走破するためのチューニングがひと目で確認できる。
ほかにもキャビンの振動を抑えて乗員の身体への負担を軽減するキャブサスを採用。ここにもレイガーサスペンション製コイルオーバー式ショックアブソーバが奢られる。
その他、マグカップ大のシリコン製リバンプストッパーがラダーフレーム下に複数並び、さらにオイルダンパーも装着する。ラリーマシンの運動性能向上と同時に、乗員へのダメージを軽減するチューニングがしっかり施されている。
意外にもサスストロークはわずか300mmに制限される
また、車体の下回りを覗くと見慣れない謎の部品を発見した。ラダーフレームとホーシングにそれぞれブラケットが装着され、そこへ空手や柔道着の帯のような黄色いベルトが取り付けられているのだ。
これはレギュレーションでサスペンションストロークを300mmに制限されているからで、リバウントベルト(写真の黄色いパーツ)と呼ばれパーツが装着されている。
もちろんブレーキも強化されており、フロントとリヤにそれぞれ対向4ポットブレンボ製キャリパーとベンチレーテッドディスクが奢られる。その他、鍛造ホイールに組み合わされるタイヤはミシュランXZL(14.00R20)を装着。ホイールのディスク面にはコクピットに乗り込む際のステップとしても活用する、3cm程度の幅を持たせた縞鋼板で滑り止めを施したリングが備わるなど、カミオンクラスのマシンらしい珍しい装備に驚きと新たな発見に出会うことができた。
機会があれば直接体感して欲しい
今回、日野自動車のご厚意で貴重な取材・撮影時間をいただくことができ、排気量10L未満クラスの中型マシンとはいえ「リトルモンスター」と呼ばれる日野レンジャーのダカールマシンの姿に圧倒された。
2019年4月に開催されたモータースポーツジャパンではデモランや同乗走行を実施。迫力の排気音とともに大きな車体を揺らしながらお台場の特設コースを駆け抜けた。
残念ながらコロナ禍でモータースポーツ系イベントの開催が見送られているが、コロナが落ち着き近い将来再開された暁には、なかなかお目に掛かることができないリトルモンスターの想像を絶する迫力をぜひ体感してみてほしい。
■日野レンジャー(HINO 500シリーズ)主要諸元
・エンジン型式:A09C-TI(インタークーラーターボ)
・エンジンタイプ:直6ディーゼルターボ
・排気量:8,866L
・最高出力:750ps/2,600rpm
・最大トルク:236kg-m/1,200rpm
・駆動方式:フルタイム4WD
・トランスミッション:6速MT
・トランスファー:Hi-Loレンジ切替付/センターデフロック付
・タイヤ:ミシュラン XS14.00R20
・車両重量:7875kg
・全長×全幅×全高:6,700×2,500×3,000mm
・ホイールベース:4,170mm
・燃料タンク容量:760L