ダウンフォースからの賜物「ダックテール」
しかし空気抵抗を小さく抑えるボディ表皮の空気をスムーズに流す空気流の考え方には落とし穴があった。現在では広く知られたリフト(揚力)の発生である。当時は対地効果という考え方がまだなく、いかにうまく空気を整流して流しても高速走行時にリフトが発生し、車両挙動が不安定になることを誘発した。
そこで考えられたのが、ボディリヤエンドにエアダムを設け、下向きの力(現在でいうダウンフォース)を発生し車両挙動を安定させようとしたボディの形状処理である。それまでの空力に対する考え方は空気の流れに逆らわず、可能な限りスムーズな空気流を保とうとする点にあった。対してダウンフォースの考え方は空気流を積極的に活用し、高速走行時の車両挙動安定につなげようとした点が大きく異なっていた。
このリヤダウンフォースを得る空力処理は、後方に向かってすぼまりながら最後にテールエンドがピョンと立ち上がるボディ形状がアヒルの尾のように見えることから「ダックテール」と名付けられた。一見してよく分かるのは1973年に登場したポルシェ911カレラRS2.7。とはいえ、下向きの力を発生させようとした考え方は1960年代中盤のフェラーリ250GTOやアストンマーチンDB6のリヤエンド処理に見ることができる。 このダックテールに関しては理論あるいは形状から明確な定義があるわけではなく、造形上の特徴から呼ばれている名称。ポルシェの場合はRS2.7の後に登場する930ターボでは、より大きなスポイラー、さらにその上面をフラットな形状とした鯨の尾「ホエールテール」と呼ばれる形状が新たに登場している。 ちなみに、量産車の空力対策という視点では、その後ファストバッククーペ、セダンを問わず、リヤエンドに空気流を変えるリヤスポイラーが多用されることになる。レーシングカーの領域では、1966年にCAN-AM仕様車、グループ7カーのチャパラル2Eが翼断面を持つリヤウイングを初めて装着。1968年にはF1にも飛び火して積極的な空力対策の時代に突入することになり、1970年代後半期に勃発したクランドイフェクトカーの時代に著しい進化を見せることになる。
クルマの空力特性には時代時代が生んできた機能美が宿っているのだった。