儀式化した旧車を労るテクニックは本当に有効なのか?
このところ旧車界隈が元気だ。かつてはハードルの高い趣味というイメージも強かったが、芸能人がYouTubeで旧車を愛でている様子を見せるコンテンツを多く公開していることも影響しているのだろう。気軽に旧車を楽しめるという雰囲気が広がっている。
そして、旧車趣味にハマっていくなら独自の儀式、いや今風に言うならルーティンを身につけるのも楽しみのひとつだ。とはいえ、本当に意味があるの? と思うようなルーティンが広まっていることもある。その代表格が「長すぎるアイドリング」だ。
長時間のアイドリングは百害あって一利なし
たしかに燃料供給装置がキャブの時代の旧車であれば、アイドリングが落ち着くくらいまでは走り出さないほうが運転しやすいが、しっかりと水温が上がるまでアイドリングで暖める必要はない。エンジンをきちんと暖めないと機械が傷むと思いがちだが、アイドリングというのは回転数が低く、吸気経路も絞った状態のためエンジンの負担が大きい。その状態で長時間放置するというのは愛車を守っているようで、逆の行為だ。
さらにいえば、旧車はアイドリングでの排気音やエンジンノイズも大きく、周囲の人にネガティブな感情を起こさせてしまう。旧車を思う存分楽しむためには社会が受容してくれる状況をつくることも重要で、その意味でもアイドリングが落ち着いたら、スッと走り出して、エンジン回転を不要に上げないように走って暖機をすすめるほうがスマートだ。
またネオヒス(ネオヒストリック)ではターボエンジンを積んでいることが多く、そうなるとアフターアイドリングをするオーナーも多い。たしかに当時モノのターボチャージャーを守るにはエンジンをすぐに切らず、しばらくアイドリングしてターボチャージャーのシャフト部分を十分に冷やし、潤滑している状態にしたい気持ちは理解できる。
ただし、1980年代後半から90年代のターボエンジンであれば、さほどアフターアイドリングは必要ない。こちらも近所の人にイヤな目で見られるリスクがある。ギリギリまで全開で走っているのであればまだしも、街乗りレベルの走りであれば、さっとエンジンを切るようにしたい。
いずれにしても旧車やネオヒス系のクルマはオルタネーターなどの発電装置の性能が弱っていることが多く、長時間のアイドリングはバッテリーからの持ち出しになってしまう。つまりバッテリーを傷めることにもなりかねない。とくにかく百害あって一利なしなのだ。
エンジンを切る直前にアクセルを吹かす意味は?
さて、エンジンを切るときに「ブォン」と一度吹かしてからキーをオフにするというのをルーティン化している人も多い。こちらは、はっきり言ってなんの意味もない。
なんとなくマフラー内にたまった水分が一気に飛んで行ったり、はたまたシリンダー内の生ガスが飛んでいったりするようなイメージはあるが、そんなことはない。よくよく考えればわかるように吹かしたときにシリンダー内に吸い込んだ混合気が残ってしまうリスクのほうが大きかったりする。もっとも、よほど熱価が高いプラグを使っていてかぶりやすいセッティングでない限りは、生ガス云々を心配する必要もない。完全に無駄な行為だ。
なんとなく気分がいいというくらいで、エンジンオフ前の空吹かしがクセになっているのであれば、早めに止めたほうがいい。昭和の伝統を無理に受け継ぐ必要はない。
エンジン始動前のアクセルペダル操作の意味は?
一方で、エンジン始動前にアクセルペダルを踏むというルーティンは、クルマによっては必要だ。わりとシビアなキャブを付けたエンジンでは、アクセルペダルを踏み込むことで始動性を良くすることもあるし、アイドルアップの代わりにアクセルを少し開けた状態を維持することが求められることもある。
とはいえ、ほぼ電子制御のインジェクターになっているネオヒス世代のクルマにおいてはエンジン始動前などにアクセルペダルを踏むのはまったく意味がない。むしろ始動時にエンジン回転数を上げることは内部を傷めることにつながってしまうので、アクセルは完全に閉じたままエンジンを始動するのが正解だ。
番外編:蛇行するだけじゃタイヤは温まらない!!
ここまではエンジン関連をテーマにしたが、最後に紹介するのは旧車ファンのみならず走り屋系のユーザーもやっているタイヤを温めるための蛇行運転だ。
はっきり言って、ステアリングを切って蛇行するくらいではストリートラジアルの温度は上がらない。蛇行運転でタイヤを温めるには、タイヤ自体がギュッと潰れるくらい負荷をかける必要があるが、それはスピン一歩手前のようなリスキーな運転だ。そして、本気の蛇行運転は公道で行なうのは危険すぎる。絶対にやってはいけない。
そもそもストリートでタイヤを暖める必要はないし、旧車やネオヒスでそのような負担のかかる走りをするのは愛車を傷めるだけだ。むしろ車体やブッシュの強さを考えると、現代のハイグリップタイヤを履かせないほうが愛車のためになるといえるのだ。