「それでも僕は諦めない」長屋宏和さん不屈の闘志
長屋宏和さんはF1ドライバーを目指し、カートレースを皮切りにフォーミュラドライバーとして「F3」や「フォーミュラドリーム」に参戦していた。だが2002年のF1グランプリ鈴鹿戦の前座レースで大クラッシュ。頸椎損傷C6の怪我を負った。
が、長屋さんは諦めなかった。不屈の精神でリハビリを続け、レーシングカートでサーキット走行できるまで復活を遂げた。現在はチェアウォーカー向けのファッションブランド「Piro Racing」を立ち上げ、ファッションプロデューサーとして辣腕を振るっている。
そんな長屋さんと筆者は、2015年にカート耐久「K-tai」に参戦したことがある。チェアウォーカーの方とレースに出場したのは後に先にもそれっきりで、その前後で自分の人生観は変わってしまった。
そこで感じた「速く走ることに必要なこと」「本当の意味でのバリアフリー」についてリポートしたいと思う。
初出:CARトップの掲載記事を改稿
チェアウォーカーがカートレースに参戦するために必要な装備とは
ツインリンクもてぎを舞台としたモビリティランド主催の「K-tai」は、もっとも参加しやすいモータースポーツだ。同コースをフルに使った7時間耐久は毎年100台以上のエントリーを集めている人気の耐久レースである。コロナ禍でもさまざまな対策を施し、イベントが継続しているのは素晴らしい。
今回長屋さんが同イベントに参戦するために、主催者側とセッションを重ねながらカートのモディファイを行った。 K-taiに参加できるカートは汎用エンジン(草刈り機や発電機が採用)を搭載し、アクセル、ブレーキ、ハンドルが装備されたシンプルなモノのみ。だが長屋さんはペダル操作が困難なため、両手だけでアクセル、ブレーキ、ステアリング操作できる器具を取り付けた。
また本来カートには、乗用車の「シートベルト」に該当する安全装備はない。コースアウトした際、速やかに脱出できるようにしているためだ。そこで万が一転倒した場合に備え、4点式ハーネスとロールオーバーバーを取り付けた。コースアウトした際は、救援車にロープで直接カートを引っ張り出してもらう。そのための牽引フックも取り付けた。
長屋さんが乗り込む際は補助しながら、両手はステアリング兼アクセル&ブレーキにバンドで固定し、体はハーネスでぎゅうぎゅうに締め付ける。両手足を拘束することになるので、健常者だったとしても取り外すことはかなり困難だ。筆者は「本人が了承していることとはいえ、チェアウォーカーの方にこんなことをしていいのだろうか」と感じたことを今でもよく覚えている。ふとピットの外を見ると、雨が降り始めていた。