雨模様のカート7時間耐久! 長屋さんの「常識はずれ」のドライビング
K-tai当日、降り出した雨はまだ止まない。だが、事故の後遺症で体温調整のできない長屋さんは「むしろ僕にとっては恵みの雨です」とコメント。長屋さんと筆者は自動車メディア混成チームで、長屋さんには第1スティントと最終スティントを担当してもらうことになった。筆者や他チーム部員が走る際は、シートとステアリングを通常のカートに戻すことにした。
さあ、7時間に及ぶ耐久レースが始まった。レース直後の混乱に巻き込まれないように、我がチームはピットスタートを選択。長屋さんを全員で送り出す。ストレートから、じっと長屋さんの帰りを待つ我々。 ピットに戻ったヘルメットごしの表情は、笑顔だった。
「本当に楽しい! 右コーナーはうまくステアリングが切れなくて、自分のイメージ通りに走れるのは3コーナーだけでした」
「何事もなくてよかった」とホッとするとともに、手元のラップタイムチャートをみて驚いた。なんとチームの中でトップタイムで周回していたのだ。「雨のツインリンクもてぎ、結構難しいのになあ」いやいや、そういう問題ではない。それ以前に、例え操作系が特殊なカートでも、健常者でもそうでなかったとしても、的確なアウトプットさえ可能なら速く走ることができる、ということ?
では一体、「速く走ること」とはどういうことなのだろう? 少なくとも字義通りの「運動神経」は、まったく関係がないということだ。ということは、……どういうことだ?
「長屋さん、1コーナーって、どうやって走ってます?」
「全開で入ってますよ」
「えっ、雨ですけど??」
気がつけば、無我夢中で長屋さんに「ツインリンクもてぎの攻略法」を聞いている自分がいた。同時に、目の前にいる長屋さんがチェアウォーカーかどうかなんて、まるで気にしていない自分に気が付いた。
長屋さんのおかげで「何か」が変わってしまった自分に気が付く
その後、チーム員は大きなトラブルなく順調に周回を重ねていく。運命の最終スティント。予定通り長屋さんが走る。チェッカーフラッグが振られた。長屋さんはどこだ? ライバルにはついていないロールオーバーバーが見える。長屋さんだ! 帰ってきた!
「(最後のスティントは)1本目より思いどおりに走れませんでした。だけど、本当に楽しかったです」
レースを通じて感じたのは、筆者は今までバリアフリーという言葉はよくわかっていたつもりだったけど、まったく理解できていなかった。浅はかだった。福祉車両やスロープの設置といったハード面の充実はもちろん大事だけど、「本当の意味でのバリアフリー」というのは、まずこちら側の意識が変わらないといけないのだ、と。 そもそも「同じ釜の飯」を食べてしまえば、「こちら側」も「あちら側」もないのだ。壁を作っていたのは、自分だった。
この日のことは一生、忘れられない。