400Rより先に誕生したコンプリートモデル
S14シルビアをベースにした「270R」はニスモにとって初のストリート仕様コンプリートカーだと言われている。その後、R33GT-Rをベースにした「400R」が登場。ニスモのコンプリートカーの歴史を作り出した270R。当時のカタログと共に開発秘話などを改めて振り返りたい。
GT-RやZではなくシルビアがベースになった理由
1994年はニスモ(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル株式会社)にとっては、大きな節目の年であった。ニスモの創立は1984年9月17日。つまり1994年は会社創立10周年だったのだ。さらにニスモ創立時から社長を務めていた故・難波靖治氏が相談役に退き、新たに安達二郎氏が社長に就任。新たな時代に向けて一歩を踏み出した年でもあった。
こうしたことから会社創立10周年を記念してさまざまな行事が企画された。その中で最もビッグなプロジェクトが10周年記念車の開発・販売だった。いわゆるコンプリートカーの開発である。
コンプリートカーの開発・販売については、以前からニスモ社内でも議論されていたという。欧州の著名ワークスチームは、そのノウハウを生かしたコンプリートカーを開発し販売していたことから、ニスモも同じようなビジネスを模索していた。それが10周年記念車という形で実現することになったのだ。
この社長肝入りの一大プロジェクトには、国内ラリーを担当していたメンバーが選出された。国内ラリーもストリートカーも同じように公道を走るクルマだというのがその理由。しかも1993年でニスモは国内ラリープロジェクトを終了していたからだ。
社長の思い入れからシルビアがベースに
さて、10周年記念車のベース車を何にするか、社内で公募をした。その中にはR32スカイラインGT-Rを筆頭にZ32フェアレディZやS13シルビア、K11マーチなどさまざまな車種が候補に挙がってきた。もちろんGT-Rが一番人気だったことは想像に難くない。
しかし、当時の難波社長の意向でS14シルビアK’sをベースにすることが決まった。かつて、難波社長はS110シルビアでサファリラリーを戦い、さらにS110シルビアベースのグループBカー、240RSでWRCを戦ったことから、シルビアに対する思い入れが深かったことがその理由であったという。車名も240RSにちなみ「NISMO 270R」とされた。
エンジンの最高出力目標は車名の由来となる270psとされ開発がスタート。ターボチャージャーはS14のノーマル。インタークーラーは冷却効果の高い大型が専用品として開発され、オリジナルの位置とは異なるラジエター前に移設された。カムシャフトも専用品となり、インジェクターと燃料ポンプも高流量タイプに交換。エンジン出力の向上に対応した。