世界的な自転車ブームで供給が追いつかない!
2020年の夏あたりから、世界的にスポーツサイクルの供給不足が相次いでいるという。一般的にスポーツサイクルの新車発表は毎年夏に行われるが、2020年は発表直後に受注停止するケースが目立ったのだ。さらに、現在は完成車だけでなく、タイヤなどの消耗パーツにまでその影響が出ている。需要と供給のバランスが崩れているとか。新型コロナの影響で、多くの国の人々がスポーツサイクルを利用するようになったのだ。日本でも都市部では満員の通期電車を避けて自転車通勤が増えているという。十数年前からロードバイクが流行り、現在も流行は続いている。週末のサイクリングロードはもちろん、かつてはモーターサイクルやクルマのメッカだった峠道も今はロードバイクを楽しむ人が多いことに驚く。
しかし、世界に目を向けてみると、スポーツ自転車のマーケットの主流はマウンテンバイク(以下、MTB)だと言われている。日本でも1980年代後半にMTBの大きなブームは訪れたが、長くは続かず……。しかしこの間、MTBの機能は大きく進化し、再びブームの兆しが出てきている。では今からMTBを始めるなら、どういう選択肢があるのだろうか?
「ハードテイル」か「フルサス」か? 構造の違い
MTBと言っても、現在はさまざまにカテゴライズされているので簡単に説明しよう。MTBは基本的にフロントにサスペンションフォークを有しているが、フロントのみのバイクは「ハードテイル」前後にサスペンションを持ったものは「フルサス」と呼ばれる。
「ハードテイル」はリヤサスがないぶん、フルサスより安く購入できる。構造もシンプルなので壊れにくく、メンテナンス性もいい。素材はクロモリ、アルミ、チタン、カーボンとある。一般的には雑に扱えるアルミをチョイスするユーザーが多い。またクロモリのしなやかな独特な乗り味を好むMTB通も多い。
対して「フルサス」はリヤサスがあるので路面の凹凸に対するリヤタイヤの追従性が高く、乗り心地も良い。ハードテイルではスキーのモーグルのようにライダーが膝で衝撃を吸収する必要があり、腰を浮かすようなシーンが多いが、フルサスの場合はバイク自体も衝撃を吸収してくれるので少々のギャップなら座ったまま通過できる。また、山の急な登りでもトラクション性能が高く、上りやすいのが特徴。半面、フルサスはリヤダンパーや複雑なリンク機構などメンテナンスを必要とする部位が多い。また一般的にはハードテイルよりも重く価格も高い。素材はアルミとカーボンが多く、現在は軽量なカーボンフレームを好むユーザーが多い。
カテゴリーによって形状が変わる
現在のMTBは楽しむシーンによっても細かくカテゴライズされている。入門者にとっては、どれを選べば良いのか迷うところだ。それぞれの違いは概ねサスペンションストローク。それとサスペンションフォークが寝ているか立っているかだ。クルマで言うところのキャスター角のような角度を言い、寝ていると下りの性能が高いとされる。
ダウンヒル(サスペンションストローク200mm以上)
ダウンヒル競技専用モデルなので、ツーリングや上りなどはあまり考慮されていない。フルサスモデルが主流でストロークも200mm以上と大きく、ほぼトップグレードのサスペンションフォークやダンパーを装備している。強度も高いためバイク自体も重く平地での漕ぎが重い。したがって日常的には使いにくいため、初めてのMTBとしては不向きだ。MTBの楽しさに目覚め、ダウンヒルコース専用の2台目もしくは3台目として考えた方が懸命だ。
クロスカントリーもしくはXC(サスペンションストロークは100mm前後)
クロスカントリーという、上ったり下ったりする周回レース用モデル。ハードテイルとフルサスがある。周回レース用なので通勤路などの巡航走行では有利と言えるだろう。サスペンションフォークは立ち気味。
エンデューロもしくはオールマウンテン(サスペンションストロークは概ね140mm~180mm)
近年、注目を集めているエンデューロという競技に対応したモデル。エンデューロはクルマでいうとラリーのような競技で、複数のステージがある。基本的にタイム計測は下りのみで、リエゾンという繋ぎ区間は決められた時間内で走行すれば良い。したがって下り性能に重点を置いているが、リエゾンには登り区間も多いので、バイクとしては総合力を持っている。自走で山に行き、下りを楽しみたいというMTBらしい遊び方を望むなら最適とも言われている。しかし。日本の山でオーバークオリティという意見もあるが、ここ数年でもっとも進化の著しいフルサス主体のカテゴリーだ。
トレイル(サスペンションストロークは概ね130mm~160mm)
エンデューロモデルがオーバークオリティと言われるの対し、日本の山に最もフィットするとされるのがこれ。自然の山を登って下って楽しむものだ。フルサスもあればハードテイルもある。やはり下りの性能が高い特徴があり、サスペンションフォークは寝ている。
Eバイク(電動アシスト付きMTB)
2年ぐらい前から注目を集めるeMTB。電動アシストで山の中の登り返しもラクラクとこなせる。道交法上、日本では24km/h以内の速度でしかアシスト機能は使えない。それ以上は通常の自転車というわけだ。このため巡航速度の高いロードバイクではその恩恵に預かるシーンは少ない。しかしMTBの場合、山の中でも小さな登り返しが頻繁に出現する。こうしたシーンで電動アシストの恩恵は大きく、最近、注目を集めているバイクだ。やはりフルサスとハードテイルがあるが、現在はまだ価格が高いのが難点。クルマで言えばターボ車で、電動アシストのないバイクはノンターボというイメージだ。
初めてのMTBは、どの価格帯を狙う?
これからMTBに乗る場合、ハードテイルなら10万円クラス、フルサスなら20万円クラスの完成車を買えばまずは問題ないだろう。このクラスはほぼアルミフレーム。ちなみにカーボンやクロモリのフレームは高い。注意したいのは数万円以下の場合「MTB風」自転車の位置付けで、オフロードを走れない場合が多い。こうしたMTBのフロントフォークにはオイルダンパーが採用されていないこともあるので注意したい。
フルサスかハードテイルかも悩みどころだ。メカ好きはどうしてもフルサスが気になる。しかし日進月歩のフルサスは2~3年でデザイン的にも古臭くなってしまう。その点、ハードテイルは古臭さを感じにくいメリットがある。結局は、予算と好みで別れるところだろう。どちらもMTBの楽しさは満喫できる。
ほぼ数年でトレンドが変わるMTB業界。早いスパンで規格が新しくなるのだ。リヤの変速機も、ついこの間までは10速が主流だったが、11速になり、現在は12速となっている。このため、古い規格のMTBを購入すると、後々スペアパーツ調達にも苦労することになる。最新の完成車を買っておけば、まずは安心だろう。
非日常での開放感がMTB最大の魅力
いずれにせよ、MTBの魅力はずばり、フリーダムな開放感だ。クルマやモーターサイクル、ロードバイクでは行けないところに行ける自由がある。スキルさえ身に着ければ階段も降りることができる。そして何よりも山の中で味わう非日常感は現代人にとってストレスを解放する瞬間でもある。スポーツとしての魅力は、自転車を漕ぐということはもちろんだが、山の中の下りはスキーにも近い感覚がある。そして何よりも美容と健康にも良い。筆者はMTBで片道1時間程度の通勤を行なったが、4カ月で10kg近くの減量を達成。以前は健康診断で成人病のオンパレードだったが、おかげで問題のある箇所がなくなった。
また、MTBはメカメカしい自転車である。サスペンションやブレーキなどクルマと共通する内容も多く、メンテナンスも楽しいものとなる。さらに各パーツをアップグレードする楽しみもあるのだ。クルマで言えばチューニングやカスタマイズの領域で、完成車として購入したMTBも自分流にカスタマイズする楽しみもある。
初めてMTBを購入するなら、MTB専門ショップに相談することが確実だし、今後のカスタマイズ面でも何かと頼りになる。クルマの世界のチューニングショップと同じで、最初は敷居高く感じるかもしれない。しかし現在のMTB専門ショップは、一時期の大きなブームの後も生き残ってきたショップが多い。それだけに確かな技術とノウハウがあるはずだ。