アウトレイジならぬ“ロードレイジ”
そうはいっても、性格は人それぞれ。ブチギレて、煽り運転におよぶ人間だっている。
「知人にせっかちな人がいて、とにかく運転が慌ただしい。信号が青に変わって、前のクルマがすぐ反応しないと、怒鳴る&クラクションを鳴らす。急だったりノロノロした車線変更をしてくるクルマにも同じことをするんです。隣に乗っていてヒヤヒヤしっぱなしです」(食品・32歳)
さらに、過激な例では……
「幹線道路を走っていたときのことです。車線変更をしようとウインカーを出すや、意地でも進路を譲るまいと後ろのタクシーがパッシングして煽ってきたんです。お客も乗せているし、まさかと思いましたが、確実に安全確認をしたし、車線変更禁止の区域でもない。コチラに落ち度はまったくなかったので、この時ばかりはキレましたね。いったんそのタクシーをやり過ごし、後ろについて5分間ずっとクラクションを鳴らし続けて追い回しました。で、途中の赤信号で止まったとき、横につけてそのドライバーを睨みつけると泣きそうな顔をして謝っていたので、さすがに勘弁しましたけど……」(映像クリエイター・49歳)
まさに、絵に描いたような煽り運転。しかも、煽ったほうが煽られるという逆パターン。
当の本人に聞いてみると“制裁”だという。つまり「アナタのしていることは煽り運転。そんなことをしてはダメですよ」をわからせる教育的指導なのだという。
もっともらしく聞こえるが、まさにこれは今回紹介した映画・アオラレの、序章のシーンを想起させる行為。
「やられたらやり返す」は、誰にでも芽生える感情かもしれないが、それを実際に行動に移すかどうかは、また別の問題だ。
この物騒な時代、どんな人間が運転をしているかわからない。もしかしたら、“アオラレ”同様、めちゃくちゃアブナイ人間かもしれない。
安全運転の教本にでも書いてあるようなセリフだが、つねに安全運転を心がけ、仮に煽られてもグッと我慢する。
結局、これに尽きるだろう。
“怒り”は人間として当たり前の感情! 肝心なのは怒りの感情のマネージメント
では、なぜ煽り運転をしてしまうのか? 冷静に自分の運転を振り返ってみることが必要かもしれない。
交通心理学が専門ではないが、心療内科/精神科医として、つねに患者の心の悩みに向き合う心理カウンセリングのプロ、“後楽園こころのあかりクリニック”の院長・吉川大輝先生に話をうかがった。
「コロナ渦での行動の自粛、ストレスが運転に影響を及ぼしている可能性はゼロではないかもしれませんが、それより個々人のもともとの性格特性によるところが大きいでしょう。個々人のもともとの性格は多種多様ですので、一概に断定はできません」「マスコミで報道される煽り事件は極端な例。ストレスを抱えている人は大勢いますが、煽り運転をする人はまれです。過激な行動に出そうになる人は、怒りをコントロールする方法を身につけることが大事です」。
“怒り”は、自分の大切なものを守りたいと思う、人間として自然な感情。怒りを覚えることは決して悪いことではない。肝心なのはアンガーマネージメント。いつもと違う考え方や行動に切り替えるなど、怒りの感情を管理することで、クルマの運転だったら「煽りたい」感情を抑えることができるのだという。
怒りを鎮める方法として、深呼吸を試してほしい。
「有効なのが“自律訓練法”です。息をゆっくり大きく吸って、止めて、ゆっくり大きく吐く、を繰り返す腹式呼吸。昂ぶった感情がおさまり、落ち着きを取り戻せます。また、ガムを噛んだり、チョコレートを食べたり、キャンディを舐めるなども(五感のうちの)味覚が刺激されて、イライラを紛らわすことができます。聴覚を刺激するという点では、音楽を聴くのもいいでしょう」。
さらに「心の余裕が大事」だと吉川先生はいう。
「たとえば睡眠不足で、決められた時間に遅れそうなときが危険です。焦り、イライラを生じやすいのはもちろん、睡眠不足は脳がとても疲弊している状態で、判断力が著しく鈍ります」。
奇しくも冒頭で紹介した映画・アオラレで、寝坊をして焦りながら運転していた被害女性が、感情にまかせて前方車にクラクションを鳴らしたことが、煽り運転を受けるキッカケになったことと符合する。なるほど、納得だ。
【映画アオラレのあらすじ】
シングルマザーの美容師、レイチェルは今朝も寝坊。慌ててクルマで息子を学校に送りながら職場に向かうが、高速道路は大渋滞。度々の遅刻に、途中、かかってきた携帯電話でクビを言い渡される。最悪の気分のまま下道を走る。
しかし、今度は、青信号になったにもかかわらず、動き出す気配のない前のクルマ。イラつくレイチェルは、乱暴にクラクションを鳴らし、そのクルマを追い越す。が、ドライバーの男は後を追いかけてきて「運転マナーがなっていない」とレイチェルを咎め、謝罪を求める。彼女はバカにした態度で拒否、クルマを出すが、相手が悪すぎた。
そこから始まる男の狂気に満ちたあおり運転、そして、レイチェルの周囲の人間を巻き込みながらの執拗な報復。果たして、些細な交通トラブルが引き金となった最凶最悪の煽り運転の結末は!? 息をつかせぬ90分間のノンストップ・アクションスリラー。
◎アオラレ
5月28日(金)より全国ロードショー
配給 KADOKAWA
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