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「ラリーアート」と言えばスタリオン4WD! 三菱のフラッグシップスポーツも復活なるか

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TEXT: 原田 了(HARADA Ryo)  PHOTO: 原田了,三菱自動車,齋藤優

ラリーアート復活で真っ先に思い出すスタリオンの雄姿

 三菱自動車が行った2020年度の決算発表会において、ラリーアートの復活を発表すると同時にモータースポーツ活動の再開にも触れ、多くの三菱ファンの期待を集めることになりました。ラリーアートというのは1984年に設立された三菱の子会社で、三菱のラリー&レース活動を統括していたモータースポーツ専門会社ですが、その一方で三菱車に向けたモータースポーツパーツや機能パーツのブランドであり、また三菱のハイパフォーマンスモデルのブランドとしても広く認知されていました。80年台半ば、颯爽と現れたラリーアートのスタリオン

 残念ながら三菱がモータースポーツ活動を縮小するにつれて活動も制限されていき、2010年にモータースポーツ活動を事実上休止してしまいました。決算発表会では、モータースポーツの一体どんなカテゴリーに参戦を計画しているのか、については発表されていませんでした。

 WRCやダカール・ラリーへの復活が噂(期待?)されているようですが、個人的にはスポーツカーレースへのカムバックを期待しています。現在のラインアップからは夢物語ですがスタリオンの復活を期待したいのです。読者の中にはスタリオンの存在自体を知らない若いファンも少なくないと思うので、先ずはスタリオンを紹介し、続いて、そのモータースポーツ界での活躍を振り返ることにしましょう。

三菱のスポーツカーといえば「スタリオン」

 スタリオンは1980年代に三菱が生産していたスポーツカー。5シーターのハッチバックというパッケージングではスポーツクーペと呼ぶべきでしょうか。ともかく当時の三菱の、フラッグシップモデルでした。三菱のフラッグシップだったスタリオン  パッケージング的にはギャランとして4代目となるアッパーミドルの4ドアセダン、A161系ギャランΣとフロアパンを共用し、前後ストラット式のサスペンションも基本的に共通。搭載するエンジンも当初は2L直4シングルカムのG63Bとそのターボ版をラインアップ。後に2.6L直4シングルカムのG54BT(ターボ仕様)が登場。最終的にはワイドボディに、この2.6Lターボエンジンを搭載した2.6 GSR-VRに一本化されることになりました。

 そんなスタリオンはさまざまなモータースポーツ、レースにもラリーにもチャレンジを続けることになりました。レースに関しては当初、プライベーターがグループN仕様にチューニングしてローカルレースに参戦する程度でしたが、ラリーに関してはラリーアートが主導する三菱ワークスとして、世界ラリー選手権(WRC)参戦を目指してグループBのスタリオン4WDのプロジェクトが1983年にスタートしています。

真っ向からGr.Bアウディに敵対したスタリオン

 これは文字通りスタリオンに、アウディの秘密兵器としてWRCで猛威を振るうようになったフルタイム4WDシステムを組み込んだもので、トランスミッションの後方に組み込んだトランスファーで前輪用の駆動力を取り出し、短いプロペラシャフトでフロントアクスルに駆動力を伝えるようにパッケージされていました。グループBプロトタイプのスタリオン4WD

 前後の駆動配分はアウディと同じく50:50で固定されていましたが、直列5気筒エンジンをフロントに搭載していたアウディに比べると、直列4気筒のスタリオンはフロント荷重が55%程度で、アウディほどノーズヘビーに悩まされることもなく、結果的に3月に行われたポルトガル・ラリーで競技車が走った直後にコースを試走。この時点で早くもセクションによっては、(ラリー本番での)アウディと同等の速さで走ってポテンシャルが確認されました。

 スタリオン4WDのデビュー戦は1984年の7月。フランス南部、ニース近郊にある軍の演習場を使って開催されるミル・ピスト・ラリー(9e Rallye des 1000 Pistes 1984)でした。これはヨーロッパ・ラリー選手権(ERC)のシリーズ戦でしたが、グループBのホモロゲーションが下りる前だったスタリオン4WDもプロトタイプ・クラスとして出走が認められていました。そしてERCにはポルシェやルノーのワークスチームが参戦するなど、レベルの高いイベントでした。

 このラリーでスタリオン4WDはプロトタイプ・クラスでクラス優勝を飾りました。プロトタイプ・クラスはスタリオン4WD以外にはシトロエン・ヴィザ 4×4とマトラ・ムレーナの2台が参戦していたのみでしたが、彼らが脱落したことで完走したスタリオン4WDが優勝したのです。いくつかトラブルに見舞われたこともあって、総合的なタイムではまだまだ特筆すべきものはありませんでしたが、ポテンシャルの一端を見せつけることはできました。スタリオン4WD

 重要なことは、そのトラブルシューティングの見通しが立ったことです。この年の10月にはグループBのホモロゲーション(車両公認)がおり、シリーズ最終戦、11月のRACに正式デビュー。翌1985年にはポルトガルとアクロポリス、1000湖、サンレモ、RACに参戦することが決定しました。84年RACラリー、スタリオン4WD

 ところが……。ホモロゲーションに必要な200台の生産に取り掛かる前にプロジェクトの休止が決定されたのです。200台のグループB(のホモロゲーション)車両販売に関する検討再考か、浮かんできたグループB車両規定調整事項かなどいくつかの理由が噂されていましたが、いずれにしてもグループB仕様のスタリオン4WDによるWRCチャレンジは叶わなくなってしまいました。

 しかしスポーツ4WDの技術開発の名目は保持され、プロトタイプ車でのテスト参戦は続行されることになり、1986年には香港~北京ラリーに参戦。中国人初のプロラリードライバー 、L.ニンジュンが、スティグ・ブロンキストのアウディ・クアトロA2に続く総合2位入賞。それにしてもWRCでの活躍を観たかったものです。

 グループBを目指して開発されていたスタリオン4WDラリーに代わって、三菱の主戦ラリーカーとなったのがグループA仕様のスタリオン・ターボでした。1986年の1000湖にプライベーターが参戦していますが、翌1987年の1000湖からはラリーアート・ヨーロッパ=ワークス体制での参戦が始まっています。87年1000湖ラリー、スタリオン・ターボ

 ただし主役がグループBからグループAに代わっていたものの、WRCのほとんどのラウンドは相変わらず4WDが猛威を振るっていて、ハイパワーの後輪駆動がポテンシャルを発揮できる場は限られていました。

 実際、スタリオン・ターボは1987年アイボリー・コーストで総合4位入賞を果たしています。その一方、中東ラリー選手権(MERC)や英国選手権、アジア・パシフィック・ラリー選手権(APRC)などでトップコンテンダーとして活躍しました。また1987年には篠塚建次郎がドライブしたスタリオン・ターボがヒマラヤン・ラリーで総合優勝を飾っています。87年ヒマラヤン・ラリー篠塚建次郎スタリオン・ターボ

レースではグループA仕様の一大勢力にも

 グループBを目指したスタリオン4WDラリーからグループAのスタリオン・ターボへと主戦マシンが変わっていったラリーと異なり、レースでは当初からグループA仕様が主戦マシンを務めていました。イギリスやオーストラリアで参戦を続けていましたが、1985年に全日本ツーリングカー選手権(JTC)最終戦のインターTECで“里帰り”デビューを果たすことになりました。全日本ツーリングカー選手権で活躍したスタリオン・ターボ その時の体制は超がつくほどの豪華版。ラリーアート・イングランド(#5)と同香港(#10)、同オーストラリア(#66)と3つの地区のラリーアートから3台のワークス・スタリオン・ターボが来日。#5には高橋国光/武藤文雄、#10には中谷明彦と3人の日本人ドライバーが乗り込むことになりました。

 ETCチャンピオンのボルボ240ターボには大きく離されてしまいましたが、中谷が予選3位、国光組がこれに続いてセカンドローに並んでみせました。決勝でも2台のボルボが独走。その後方でこの年の全日本チャンピオンとなるBMW635CSiと激しく争った末に4位でチェッカー。国産車としてのベストリザルトを残しています。

 翌1986年シーズンからはJTCにフル参戦を開始し、国光/中谷のコンビがシリーズ第3戦のレース・ド・ニッポン筑波で初優勝。最終戦のインターTECでは中谷が、遠来のジャガー2台に割って入る予選2番手でフロントローを確保。ジャガーを率いていたプレイングマネージャーのトム・ウォーキンショウをして「あれは何者だ!」と驚かせしめたことは、今も語り草となっています。

 そしてフル参戦2シーズン目となった1987年には開幕戦の西日本、第2戦の西仙台と開幕2連勝を飾りましたが、ライバルも大きな進化を遂げることになり、残念ながらシリーズチャンピオンには一歩手が届きませんでした。

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