さまざまな意見が飛び交う「据え切り」を再検証
編集部から「旧車の据え切り」についての原稿の依頼が届いた。これまでに雑誌やウェブを含めて、さまざまな意見や論争が飛び交っている。大手サイトの検索窓に「据え切り」と打ち込み、ポチっと押せば膨大な数の記事が見つかる。「もう見飽きたよ」という意見もあると思うが、おさらい感覚でしばしのお付き合いを!
クルマに負担が掛かっていると肌で感じられた重ステ時代
まず、据え切りとは「クルマが停止している状態でステアリングを切ること」であることは、クルマに乗る多くの人が理解していると思う。「停止した状態でステアリングを切るのだから、タイヤのショルダー部分に負担がかかる。そして偏摩耗を起こしてタイヤのライフを短くしてしまう。ステアリング系やサスにも負荷がかかって、トラブルの原因になりかねない」というのが否定派の大多数の意見だ。
パワステ装着率が100%に近い今、パワステなしのクルマについて語るのは無意味かもしれないが、パワステなしのクルマで据え切りをするのはかなり大変。とくにフロントヘビーなFF車の重さはハンパじゃなく、車庫入れするだけでもひと仕事だった。
旧車のハンドルが大きかったのはそれを少しでも軽減(テコの原理)するためだったのだ。こうした体験をすると「据え切りってクルマに負担かかってるんだな」と肌身で感じた。少し動かしながら操作したほうが楽だったので、自然にそうした運転をマスター。クルマへの負担低減よりも必要に迫られたというのが正解だ。
パワステは据え切りするために開発されたもの
パワステが付いた今でも、タイヤやステアリング系に同様の負荷がかかっているのは間違いないので、据え切りをやらないことに越したことはない。ただ、パワステが普及した今は停止状態でもハンドルを簡単に切ることができる。できるのにやらない人はいないわけで、パワステ装着率の上昇とともに、各メーカーは据え切り操作に対する試験を開発に盛り込んでいく。
また、近年はタイヤのグリップ力向上、ボディの肥大化による全幅の拡大によって据え切り機会も増えた。さらに重量増も顕著なこともあり、パワステのアシスト量は多くなり、パーツの強度&耐久性も年々見直されている。
つまり、現在は据え切りすることを前提に開発が進められているので、ジムカーナ競技のようにロック・トゥ・ロックを短時間に異常な回数でもしない限り、異常が出ることはない。限界を超えそうになった場合はフェールセーフ機能が作動し、パワステのアシストを停止するなどトラブル対策も施されている(温度管理していることが多い。温度が下がれば解除されるので、一定の時間をおいてエンジンを掛け直せば元に戻ることが多い)。
結論:現代のパワステ車なら積極的に使うべし
また、もうひとつ、据え切りはありとする理由は「安全性」。とくに初心者やクルマに乗る機会が少ない人は操作がおぼつかなく、車庫入れや転回(切り返し)などで、少しでも動作(考えること)を減らすほうが、踏み間違いなどの人為的な操作ミスを防げるはず。
MT車ならクラッチがあるのでエンストし、踏み間違えることはなかったが、駆動が切れないAT車では可能性が十分ある。愛車を大事にすることも大切なことだが、事故しないほうがそれ以上に大切だ。
ちなみに、旧車の据え切りで注意すべきなのは、最近増えている後付け電動パワステ(軽自動車用のパワステ流用)の装着車だ。もともと、旧車は据え切りを前提に作られていない。そのため現行車と同じような感覚で雑に操作すると、ベアリングやタイロッドブーツなどステアリング&サスペンション関連部品の寿命がより短くなる可能性は高い。パワステ装着車の旧車オーナーの方々は肝に銘じ、点検・整備に気を配ってほしい。
結論、据え切りはクルマに負担をかけるのは間違いないが、新しいクルマであればあるほどストレスは微々たるもの。普段の運転する範囲であれば気にしなくていい。止まっている状態で据え切りしないことは、今やクルマへの愛情表現のひとつかもしれない。