GRシリーズは本格スポーツからエコカーまで設定
トヨタは運転の楽しいスポーツモデルとして、GRシリーズを用意している。既存のトヨタ車にチューニングを施した車両だ。チューニングの度合いに応じて、GRスポーツ、GR、GRMNの3種類がある。
もっとも軽度なミニバンなどを含めたタイプがGRスポーツで、その上に位置する高性能なタイプがGRになるのは、名称の話ではあるが少々わかりにくい。そしてスープラや次期86には、GRの名称が冠されている。スポーツカーは車種自体をGRに含めている。
ユーザーに存在が知られていないもどかしさ
気になるのはGRの売れ行きだ。もっとも話題になるGRヤリスは、2021年4〜5月に、1カ月平均で550台前後を登録した。ヤリスの登録台数は約9300台、ヤリスクロスは約8400台だからGRヤリスは圧倒的に少ないが、チューニングモデルとしては堅調だ。
それでもヴォクシーやノア、C-HR、プリウスPHVなどに用意されるGRスポーツは、街中であまり見かけない。ユーザーの反応はどうなのか、トヨタの販売店に尋ねると以下のように返答された。
「GRスポーツはヴォクシーが比較的人気で、ほかの人とは違う個性を求めるお客さまが購入されている。ただし価格はノーマルグレードのZSなら280万円を少し上まわる程度だが、GRスポーツは330万円を超える。高価だからZSを選び、好みに応じて小額のディーラーオプションで外装をドレスアップするお客さまが多い」。
別の店舗では観点の異なる話を聞けた。「GRはもともと生産規模が限られ、お客さまも存在をご存知ないため、売れ行きが伸びない面がある。以前、たまたまノアのGRスポーツを展示したら、これイイね、と言われて販売に結び付いた。女性のお客さまで、フロントマスクがオシャレだと表現された方もいらっしゃった」。確かにノアSi・GRスポーツのフロントグリルは、エアロパーツを装着しながらシンプルである。
以上のようにGRスポーツはあまり売れていないが、この背景にはアピール不足もある。グレードとは区分の仕方が異なるから、ユーザーから見ると、商品の内容や位置付けがわかりにくい。加えて生産規模も小さいから、積極的な販売促進を行わず、売れ行きも伸びない。
その点で例えば先代日産ノートNISMOは、販売店に試乗車を配置して、販売促進にも力を入れた。売れ行きが伸びて、街なかでも時々見かける。
ファミリーカーの弱点を補いベース車の新規開発にも好影響
このほかミニバンの場合、ノーマルグレードは高重心かつ重いボディによって走行安定性が物足りない。スポーティに走るつもりは一切なくても、家族を乗せるから危険を避ける性能は十分に確保したいもの。その意味でもノア&ヴォクシーのGRスポーツは、ボディの底面を中心に補強を行い、サスペンションが正確に作動するように配慮されている。ノーマルグレードに比べて走行安定性が高い。
GRスポーツの基本はドレスアップだが、ボディ形状や車両重量、コストの低減などによって生じたミニバンの欠点を補う効果もあるわけだ。売れているか否かと問われれば後者だが、細かなユーザーニーズに応えられるメリットはある。
クルマの開発者からは「(GRのような)コンプリートモデルの運転感覚に刺激され、ノーマルグレードの設定を見直したこともある」といった話も聞かれる。良い刺激を与えている面もあるわけだ。
ただしメーカーが自ら、古い誤った認識を持っていたのではダメだ。以前、ヴォクシーとノアのCMに、前輪駆動車なのに後輪を横滑りさせながらドリフト状態で走る映像があった(後輪は止まっていた)。あれでは一般のドライバーからは「何だか怖いクルマ」と思われ、クルマ好きは「アホかっ」と呆れるから、誰からも共感を得られない。