クルマの未来に期待を描かせてくれたクルマたち
日本が、バブル経済期へ向かってぐんぐん成長していた1980年代に、ハイソカーとかスペシャリティカーといったクルマが急速に人気を集めた。
ハイソカーとは、ハイソサエティ(上流階級)の人々が乗るような印象を与える特別なクルマの意味で、なかでもそれまで白の車体色は営業車など廉価なクルマの象徴であったのを、トヨタがスーパーホワイトと名付けた発色がよく輝きのある白いクルマを売り出し、一気に上質なクルマの色として格をあげた。
そして、クラウンやマークII3兄弟(マークII/チェイサー/クレスタ)などがハイソカーと呼ばれるようになり、さらにスペシャリティカーという特別なクルマとして、ソアラやセリカXX(のちのスープラ)が加わって憧れのクルマとなっていった。
トヨタ勢に対抗したホンダ・プレリュード
ことにソアラはこれまでにない外観の2ドアハードトップで、簡素な造形ながら奥深い気品を思わせ、内装は明るい色を採り入れるなどして豪華さを強調した。同じスペシャリティカーでも、ソアラは上流階級の気高さを表し、セリカXXはよりスポーティな車種の位置づけだった。
競合の日産にはセドリック/グロリアがあるし、スペシャリティカーではレパードがあったが、それらは技術の日産を体現するように走行性能などは優れていたが、武骨さも残り、ハイソであったりスペシャルであったりといった雰囲気はやや不足していた。
トヨタ勢に対抗したといえるのが、ホンダ・プレリュードではないだろうか。ことに2代目は、前輪駆動(FWD)車であるにもかかわらず、ミッドシップカーのようにボンネットフードの低い精悍な外観で、リトラクタブル式ヘッドライトの採用も特別な一台という印象を与えた。
上流階級的であり特別な存在でもありながら、大き過ぎない車体寸法や、前奏曲という意味の車名によって知的な印象も与えるスペシャリティカーであった。そしてプレリュードも白の車体色がよく似合った。
スバルやいすゞにもあったスペシャリティカー
同じ時期に、いすゞからはジウジアーロが造形したピアッツァが登場し、日本車にはない美しさと独創性があった。
スバルからは、アルシオーネというやはり2ドアのスペシャリティカーが登場している。航空機メーカーとして発足したスバルらしく、空気力学を意識した外観が特徴であり独創的だった。
それぞれに個性豊かな2台ではあるが、スペシャリティカーの流行に乗るには、何かが足りなかった。独特な外観はともかく、運転感覚が十分には洗練されていなかったといえるかもしれない。
いずれにしても、メーカーとしての規模の大小を問わず、開発者たちが思い切った発想や着想を活かし新たな価値に挑戦した時代であり、開発した人々の思いが消費者の心にも届くクルマであったのは間違いない。
また、70年代の排出ガス規制や石油危機といった不安を乗り越え、クルマの未来に期待を描かせてくれたクルマたちでもあった。