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「ロリンザー」ってどんな会社? メルセデスとの関係は? ドイツ本社に突撃してみた

老舗チューナーとメルセデス・ベンツとの深い関係

 メルセデス・ベンツのカスタマイズにおいて「ロリンザー」というブランドを聞くことは多いだろう。ドイツのチューナーである同社は、日本でも広くその名を知られている。しかし、そのイメージは「ちょっと怖い感じ」と捉える方も少なくない。純正でも堂々とした風格のあるメルセデス・ベンツにさらに迫力を持たせるスタイルは、やはり「ちょっと普通じゃない」と感じる。2013年、筆者はドイツ・シュツットガルト近郊のヴァイヴリンゲンにある本社を訪ねた。怖いとはまた違うが圧倒されるほど大きいショールーム。そしてインタビューに応えてくれた代表のマークス・ロリンザー氏は物腰の柔らかい紳士だった。ロリンザー社のアイデンティティや信念とは? 現在・過去・未来について、マークス氏に赤裸々に語っていただいた。

初出:af imp 2013年12月号

3代目が継承するロリンザーの始まりと歴史

 日本でもドイツ車好きならばロリンザーの名を知らない人は少ないだろう。それほどまでに世界的に有名なドイツのメルセデス・ベンツ老舗チューナーを訪問。となれば、ある程度のことは予測していた。しかし本社の佇まいは、わたしの予想を超える規模だったのである。3フロアの広大なショールームは明るいガラス張り。コンプリートカーと歴代の名車を集めた「ロリンザー・クラシック」コーナーがそれぞれにフロアを独占している。また、メルセデス・ベンツの新車も各モデルが展示されており、隣接する建物はトラックまで入るメンテナンスピットとなっているのだ。

 それもそのはずで、すべての始まりは1936年のこと。現在マネージャー(社長)を務め、今回のインタビューにも対応してくれたマークス氏の祖父の時代にダイムラーベンツのディーラーとして創業。そして父の代である1981年に「スポーツサービス・ロリンザー」を立ち上げ、ディーラーとチューニング部門の事業を分化したのだそう。

「ディーラーに訪れるお客さまに、他とは違うクルマにしてほしいとオーダーされ、BBSのホイールを付けたのがきっかけなんですよ。その噂が広まって、どんどんオーダーが来るようになりました。当時はチューナーというよりプロショップ的な存在でしたね。パーツを取り付けたりワンオフものを作ったり」

最初のコンプリートはSクラスだった

 一番最初に作ったコンプリートカーはW116のSクラス。その当時から変わらない信念とは何か。

「基本的には〝個性化〞のひと言です。AMGも確かに個性化の一歩ではありますが、それでも自動車メーカーの作るブランドですから限度がある。しかしわれわれは対応できる幅が広い。例えば一部パーツだけを装着してさり気なくでもいいし、コンプリートでまったく変えることもできる。そうやって各々のニーズに答えるオリジナリティは、昔から、そしてこれからも変わらないコンセプトです」

 そういったロリンザーらしさ、を打ち出すことにおいて、各モデルの開発に何か共通させるアイデンティティのようなものはあるのだろうか。

「まず最初にこのクルマなら何ができるのかを考える。SLならSL、GLならGLで、本来の個性を活かしてどこにロリンザーらしさを投入できるか。それぞれに方向性が違いますから。最終的にすべてが同じようになることはまずないですね」とロリンザーのデザイナーは話している。

「今、アウトバーンを走っていて後ろからSLが来たと思い道を譲ると、実はSLKだったってことがあるんですよ。一瞬顔を見ただけでは見分けられない。でもそれってSLを買った人に失礼じゃないですか。だからそういうところはわれわれが明確に違いを見せてあげないといけない、と思っているんですよ」と続けるマークスさん。

ロリンザーエンブレムの由来は「紋章」

 メルセデス・ベンツはクラスの幅が広がったぶん、それぞれの個性化が十分行き届かなくなっている。その中でロリンザーとしては、各モデルに乗っている人それぞれにプライドと満足を与えるのが使命だというのだ。そういった目でロリンザーが手掛ける各モデルを見れば、確かにまったく別の表情を発見できる。CLSはその流線形を活かし、ボトム部が作り出すキャラクターラインも前後へ流れる風を感じる。

実際にステアリングを握らせてもらったが、アウトバーンでなくとも、流れに合わせてアクセルを踏むだけで気持ちが高揚する。これは各部のチューニングによる恩恵だけではなく「ロリンザーメイド」に乗っている、そしてそれを羨望の眼差しで見られるというメンタル的な喜びも多分にあったと思うのだ。

SL500ロードスターは、フェンダーまでカスタマイズすることで、美しいワイド&ロースタイルを手に入れた。そして堂々としたフロントマスクのセンターに輝くロリンザーのエンブレム。確かにこれは純正では得られない喜びをもたらしてくれる。ちなみにこのエンブレムは世紀から続くロリンザー家の紋章から作られたもの。本来なら太陽と川と月がデザインされていたところ、川の部分をタイヤ跡に変えたそう。Tシャツやグッズなどのコレクションには以前から使われていたが、2010年くらいからクルマのエンブレムとしても使用するようになった。ユーザーから「もっとロリンザーのクルマに乗っていることを表現したい」と要望があったためだと言う。

メルセデス・ベンツとの関係は今後も変わらず

 ほぼメルセデス・ベンツオンリーでやってきたロリンザーにおいて、より幅広いメーカーへの展開は考えていないのだろうか。

「ロシアのディーラーからの要望でインフィニティを少し手掛けましたが、われわれはあくまでメルセデス・ベンツという大きな柱を変えるつもりはありません。ディーラーを含め長年寄り添ってきたことで、どこがよくでどこが悪いのか、すべてわかっているのです。だからチューニングに関しても間違うことはない。あれこれ手を出すチューナーもいますが、われわれは今の姿勢を貫いて行きたい」

 ドイツにおいてメルセデス・ベンツのディーラーとチューニングの両方を展開しているのはロリンザーのみだそうで、その強みと責任をしっかり感じているのだ。エクステリアだけでなく、ハイパワーチューニングも手掛ける。そうしてメルセデス•ベンツの魅力を存分に引き出していくのがロリンザーだ。老舗という立場に満足するのではなく、今後も進化を求め、ロリンザー伝説はこれからもまだ脈々と続いていくのだ。

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