「ニッポン・レース・エンジン」は低燃費とパワーアップを両立
ここまで紹介してきたエンジンは、いずれも最高出力を引き上げるために排気量を拡大したり、より多くの混合気を燃焼室に押し込もうとしたり、そんな技術でした。もちろんその技術も素晴らしいのですが、実はもっと素晴らしい技術、環境技術の向上も目指したエンジンがあります。それがSUPER GT(S-GT)やスーパーフォーミュラ(SF)といった国内最高カテゴリーのレースで使われているN・R・E(Nippon Race Engine)です。 これは具体的に言うとトヨタのRI4AG、ホンダのHR-420E、日産のNR4S21(いずれもS-GT用でトヨタとホンダのSF用はそれぞれTRD 01F、M-TECH HR-417Eと呼ばれています)で、2L直4の直噴ターボという共通のパッケージで開発されています。
技術的にみて最大の特徴は、燃料の流量を制限して最高出力を制限していること。これまで吸気制限や電気的なレブリミッターでパワーを制限するのが一般的でしたが、N・R・Eでは燃料リストリクターを装着し使えるガソリンの量を制限しようとするもの。つまりガソリンを野放図に使うのではなく、燃焼効率を高めていってパワーアップを図ろうというものです。 結果的にパワーアップと低燃費を両立させることが可能になっています。キモとなる燃料リストリクターも技術的に高いレベルで仕上げられており、F1でトラブルが相次いでいたころには「システムごとF1GPに売り込んだら?」との冗談も交わされていたほどです。
そしてもうひとつ、技術的な特徴に加えて哲学的(?)な特徴として、レースを戦っているトヨタとホンダ、そして日産の技術者が顔を突き合わせてパッケージを決定していったことが挙げられます。モータースポーツが生き残っていくために協調と競争が両立したのです。
今シーズンここまでは、スーパーGT選手権で3戦2勝、スーパーフォーミュラ選手権で4戦3勝とホンダが優勢ですが、レースの面白さを台無しにするワンサイドゲームではないことからも、N・R・Eのコンセプトが的を射ていたことが分かります。もちろんこれも我が国の技術遺産に認定したいところです。