止まった競技車を再び走らせるメカニックたちの神技
ある時、篠塚選手がドライブするギャランVR-4のエンジンが壊れた。どうもシリンダーヘッドが壊れたらしい、との無線連絡が入った。
運よくもこの日の最終ステージだったので、競技区間の出口に全サービス隊を終結。何人かのメカニックは拠点としていたガレージに馳せ参じ、置いてあるスペアエンジンからシリンダーヘッドを外して持ち帰る動きに移った。
競技ルート上のチェイスカーは建次郎ギャランの助けに向かい全開で走る。チェイスカーはメカニックの腕前もそこそこあり修理対応の出来るラリードライバーが運転し、チーフメカニックが助手席に乗っているのだ。そしてラリーカーに追いつき、バンパーTOバンパーで押して、動かないものを動かす(笑)ということになったのだ。
TC手前ではポーンと押し出し、ユルユルとチェックイン。そこからTCゾーンの数十mは人力で押し、コントロールゾーンを過ぎればまた、チェイスカーの動力で走る(笑)。この頃は比較的、おおらかでこのようなグレーなことでもあまりチーム同士でクレームをつけることはなかった。どこもそれぐらい大雑把でないとやれないのがサファリ、という認識だったのだ。
やっとサービスに着いたギャランはメカニック総出でシリンダーヘッド外し。はずれる頃にはガレージから別のヘッドが届いて組み付けて、「グワン」とエンジンが掛かりラリーは続いてゆくのであった。
ラリーメカニックの作業スピードは神技だ。
執筆/三好秀昌
ラリードライバー、フォトグラファー。1990-1994年まで篠塚建次郎選手をドライバーとする三菱ラリーアートのチームマネージャーとしてサファリ・ラリーに関わってもいる。自らもスバル・インプレッサのドライバーとして1995、1996(WRC)、1999(WRC)年参戦。1995〜96年2年連続サファリ・ラリーでグループN優勝。2007〜08年、アフリカ選手権サファリ・ラリーに三菱ランサーエボリューションのドライバーとして参戦。2008年FIAアフリカ・ラリーチャンピオン獲得。5回のサファリ・ラリーでは完走率100%。親しみあるショットの動物写真家でもある。