タイヤ&ホイールとフェンダーの隙間には意味がある
シャコタン・ツライチにおいて課題となるのはタイヤとフェンダーの干渉だ。フェンダー部分というのは開放部だから、鉄板そのままではペナペナになってしまう。
通常のクルマでは、フェンダーアーチの縁のところを、ツメ(ミミ)といって鉄板を90度程度に曲げることで強度を確保する必要がある。新型シビックでは、そのツメを折りたたむような特殊な形状にして、ミリ単位でクリアランスを確保した。
このツメが大きいほどタイヤは外側に出すことができず、ツライチとは程遠いスタイルになってしまうのだ。それが純正状態でのタイヤが引っ込んだスタイルの大きな原因だ。そのためカスタマイズでツライチにしようと思うと、ツメを加工してタイヤに干渉しないようにする必要があり、その作業を「ツメ折り」といったりする。
自動車メーカーはタイヤとフェンダーのクリアランス設定について、チェーンの装着も考慮して行っている。金属チェーンをつけても干渉しないだけのスペースを確保しようとすると、フェンダーとタイヤの間がスカスカになってしまうのも仕方がないことだ。
サスペンションの進化で新車のツライチ化が増加
サスペンションがソフトで、ロールが大きなクルマの場合は静止状態ではスカスカに見えるすき間も、目一杯ロールさせるとギリギリのクリアランスになるケースもある。もちろん、タイヤを切ったときに干渉しないことも重要だ。止まっている状態でセッティングするとタイヤとフェンダーが当たってしまうことがあるのは、このようにタイヤがストロークする(動く)ためだ。それを防ぐにはサスペンションを固めていくのが常套手段である。
さらにサスペンション形式によっては、ストロークによるタイヤ位置の動き方に違いがある。リジッドサスペンションでは、スプリングが縮んだときにタイヤが外側に移動することもあり、そうした部分まで考慮してクリアランスを決める必要があるのだ。最近の新車が「シャコタン・ツライチ」に近づけられる背景には、タイヤの動きをしっかりとコントロールできる、マルチリンク形式などのサスペンションを採用しているという面も無視できない。
いずれにしても、自動車メーカーは「シャコタン・ツライチ」なスタイリングのほうが魅力的であるということは昔からわかっていた。だからといって、タイヤとフェンダーが干渉するようなクルマを新車で出すわけにはいかない。カッコいいスタイルを、メーカーに求められる要素を満たしながら実現できるだけの量産技術が確立したことが、最近の新車において「ツライチ」が増えてきた理由だ。