ハイラックスも参戦! 異種格闘技戦の様相を見せる全日本ラリーが面白い
今年の全日本ラリー選手権はなにやら賑やかだ。トヨタがラリーを戦うために開発したという「GRヤリス」、WRCを戦う世界基準のR5マシン「シュコダファビアR5」の参戦に加え、第5戦唐津ではなんとワンボックスの「ハイエース」までも登場。
出場したのはTRDとオフロードパーツメーカーのJAOS(ジャオス)。全日本ラリー選手権として初のクロスカントリー車両クラス「OP-XC」の新設によって参戦が可能になった。両チームともに東南アジアでのクロカンラリーや国内でのエキシビジョンレースの実績は豊富であったが、JAF規格の国内の公式戦にエントリーするのは初めてだ。
2台のハイラックスは異なるパワーユニットを搭載して参戦
TRDとJAOSのハイラックスは、見た目こそ同じハイラックスではあるが中身はかなり異なる。
TRDのハイラックスはタイで販売されている2.8Lディーゼルターボモデル(タイでの販売名はハイラックス・レボ)。一方、JAOSはオーストラリア仕様の4.0L V6のガソリンモデル。ちなみにどちらもAT車だ。TRD、JAOSともに今回のコースに合わせたセッティング変更は行っておらず、各々が活動してきたフィールドに合わせた仕様のままでの参戦となった。
ちなみにJAOSのマシンはタイを起点に東南アジアのラフロードで約2000kmを走破するラリーレイド、アジアクロスカントリーラリー(以下、AXCR)参戦のためのもので、2019年にクラス優勝を遂げたマシンだ。参戦体制もAXCRを戦ってきたTEAM JAOSのスタッフが担当した。
TEAM JAOSはJAOSの本拠地であるトヨタディーラー「群馬トヨタ」のメカニックが、マシン製作や現地でのサービス活動を担当。ドライバーはJAOS開発部の能戸知徳選手、コ・ドライバーはKYBでサスペンション開発を行っている田中一弘選手という混合チーム。ともに海外でのラリーレイド参戦のための布陣であり、このチームクルーとの全日本ラリーは初参戦だ(編集部注:能戸選手、田中選手は2018年嬬恋ラリーにGDB型インプレッサWRX STIでスポット参戦の経験あり)。
広くはないグラベルコースを巨体のピックアップトラックが疾走
この2台の走りだが、ほかのクラスとは比べ物にならない大きなマシンが、全日本ラリーのコースを疾走する姿はかなりの迫力だ。ちなみに全長は5m以上あり車重は2tを超える。そして林道に響きわたるJAOSのマシンが放つV6 NAガソリンエンジンのエキゾーストノートは独特だ。
今年の全日本ラリーでは初めて有観客開催となったARKラリー・カムイだったが、その新鮮さも相まって観客席からも好意的な声が多く聞かれた。選手権外のオープンクラスのため総合順位のリザルトには反映されないが、タイム的にはTRDが総合22位、JAOSが25位に匹敵する。
タフネスなマシン特性もあってダメージが少なく参戦コストはリーズナブル
もともと凹凸の激しいラフロードを、長時間走りきるための地上高とタフさを備えた重量級マシンが、整備されたフラットダートでこのタイムが出せるのは立派なもの。特筆すべきは、この2台は1日1回のみの給油と1セットのタイヤで全日程を走りきったことだろう。海外のラリーレイドを戦うマシンにとって、SSの総距離が108.84kmと短いコースではダメージは皆無。
ラリー自体は48台中15台がリタイアするタフなものとなったが、2台のハイラックスは何れも1日2回設定されたサービス(メンテナンス)を簡単なチェックだけで済ましている。
TRDは9月のラリー北海道にも参戦! その激しい走りにも注目
ピックアップトラックは東南アジアをはじめ世界各地で開催されるモータースポーツ参戦車両として人気があり、グローバル戦略車でもあることから多くのメーカーがしのぎを削るカテゴリーだ。
もちろんハイラックスも、その人気の一翼を担うモデルで世界各地で販売されてる。そんなハイラックスが日本のモータースポーツフィールドに登場したことは興味深い。9月には全日本ラリー第6戦「ラリー北海道」でもOP-XCクラスが設定される予定で、TRDはすでに参戦を表明している(編集部注:8月20〜22日にて開催の第8戦・横手ラリーが新型コロナ感染症対策のため延期・中止を申請しました。第9戦・ラリー北海道についても全国の感染拡大の状況次第では延期・中止になる場合があります)。
マシンの規定は、現状JAFが定める安全装備を満たせば大きな制約がない。タイヤもMT(マッドテレーン=泥道など荒れた路面での走破力も高いブロックの大きなタイヤ)が路面保護のため使えず、AT(オールテレーン)に限られるものの参戦のハードルはさほど高くない。
OP-XCクラスの新設により、日本人にあまり知られていなかったカテゴリーのモータースポーツが全日本ラリーから新たに生まれることは歓迎だ。細かなレギュレーションや参加台数など、このクラスの今後の動向にも注目していきたい。