日産の威信をかけた電動クロスオーバーSUVが登場
リーフとe-NV200に続く電気自動車(EV)として、一昨年の東京モーターショーで公開されたアリアが、いよいよ発売された。6月からの予約注文を期に、日産自動車は限定車となるアリア・リミテッドの詳細を発表した。そしてわずか10日で、4000台の受注を得たという。
仕様は大きくふたつに分かれ、車載バッテリー量が66kWh(キロ・ワット・アワー)のB6と、91kWhのB9となる。これは、40kWhのリーフ標準車と、62kWhのリーフe+(eプラス)と同様の考え方だ。そしてそれぞれに、前輪駆動(FWD)と4輪駆動(4WD)の選択肢がある。
限定車としてのアリア・リミテッドの車両価格は、660~790万円となる。ただし、補助金を活用すると約500万円から購入できそうだとのことだ。
EV市場はSUVタイプの投入が目立つ
モーターショーでの発表当初から、アリアはクロスオーバーの姿をしており、SUV(スポーツ多目的車)の延長といえる。米国のテスラが、セダンからSUVへ車種を拡張していったのと異なり、エンジン車を含め現在の時流にそったクロスオーバー(またはSUV)での車種の拡充となる。このあと、同じくモーターショーで公開された軽EVのIMkが続くことになるだろう。
国内外を含め、このところEVの発売が相次いでいる。その動向を見ると、アリアと同じようにクロスオーバーあるいはSUVの形態での市場導入が目立つ。
マツダは、同社初のEVとしてMX-30を今年発売した。レクサスも、ごく少量だがUX300eでEV販売を始めた。
輸入車では、メルセデス・ベンツがEQCを発売し、続いてEQAを導入する。アウディは、e-tronで本格的にEVへの移行をはじめ、このあとQ4 e-tronスポーツバックが続く。
BMWも、2013年にコンパクトハッチバック車のi3のあと、iX3を発売し、続いてiXを登場させる予定だ。フォルクスワーゲン(VW)も、ID:4というクロスオーバー車を用意している。フランスのプジョーは、e-2008をe-208とあわせて発売している。
以上のように、国内外を問わず世界的な新車市場で根強い人気を誇るSUVを基にしたクロスオーバー的な車種でのEV展開が強化されているのである。
欧州メーカーは大衆車的なEVも車種に加えている
さらには、モーターの駆動力制御はエンジンの100倍速く行えることから、EVかプラグインハイブリッド車(PHEV)かの選択はあるにしても、未舗装路の走破性を商品性とする4WD車の電動化も当然進むのではないか。たとえばアウディは、e-tronのプロトタイプEVでパリダカに来年参戦すると表明している。
一方、ポルシェはタイカンを初のEVとし、それはカイエンやマカンのようなSUVではない。スポーツカーメーカーとして、初のEVをSUVとするわけにはいかなかったのだろう。そしてタイカンを基に、アウディもe-tronGTを発売している。
BMWは、i4という4ドアクーペのEVも車種に加えている。メルセデス・ベンツは、最上級4ドアセダンとなるEQSを発売する。VWには、ゴルフに相当するID:3がある。イタリアのフィアットは、チンクエチェントの愛称で親しまれてきた500を、500eとして発売する。
以上のように、SUV人気という時流を意識しながらも、欧州メーカーは自社のプレミアム性やスポーツ性、あるいは代表する個性を主張する大衆車的なEVも車種に加えている。
セダンやハッチバックといったEVも次第に加わる
その意味では、N360やシビックに象徴されるホンダが、ホンダeというコンパクトハッチバックのEVでその第一歩を印したのは理解できるし、理にかなってもいるのではないか。
また軽自動車のハイトワゴンが国内では人気を得ている。そこに適応するIMkが日産から発売予定であり、軽自動車の開発と生産で提携する三菱自動車工業からも同様の軽EVが発売されることになるだろう。
EVは、リチウムイオンバッテリーの原価によって車両価格が高めの設定となっている。その価格低減には、確実な新車販売が必要だ。その意味でSUVやクロスオーバーでの導入や車種の充実があるのは事実だが、それだけで新車市場を満たせるものではなく、これからはコンパクトハッチバックや、セダンなどのEVも次第に加わってくるだろう。そのとき、EV市場もさらに活気づくのではないか。
そして日産については、もし次期GT-Rの可能性があるなら、タイカンやe-tronGTと競合する、4輪駆動EVで登場してほしいと願う。