記録より記憶に残る“ワンエイティ”
バブル景気に沸いていた1989年(平成元年)、日産S13シルビアの兄弟車として登場した180SX。1.8LのCA18エンジンを搭載していたため180SXと命名された。1991年(平成3年)のマイナーチェンジで、搭載エンジンは2LのSR20に変更された。だが“ワンエイティ”という名称が浸透していたため、車名はそのまま残されたという。
当時は国産スポーツの黄金期。日産スカイラインGT-R(BNR32)をはじめ、トヨタ・スープラ(JZA80)や日産フェアレディZ(Z32)、マツダRX-7(FD3S)や三菱GTOなど、高性能モデルが数多く登場し、多くのファンを魅了した。274万8000円(タイプX/5速MT)という手ごろな新車価格を掲げた180SXは、若者たちから多くの支持を集めた。走り屋ブームもそれを後押しした。 10年近く生産された180SXは、1989年〜1991年の前期型、1991年〜1996年の中期型、1996年〜1999年の後期型に分けられる。後期型になってテールランプが丸型に光るタイプに変更された。また前期型がCA18ユニットを搭載し、中期型以降はSR20エンジンを積み込む。ターボとNA、5速MTとATモデルが存在し、チューニングパーツが豊富なのも魅力だ。
2LターボのFR、しかも5ナンバーサイズで、車重は1.2t台というパッケージは、いま振り返ってみても秀逸である。リトラクタブル式ヘッドライトを採用したスタイリッシュなデザインも、衝突安全基準が厳しくなる前の時代だからこそ実現できたといえる。約30年の歳月が経過したいまも、その輝きはまったく色褪せない。
いま我がもとに再来の“ドリフトスポーツ”
ライター業をしている筆者が180SXの購入に踏み切ったのは、昔からの憧れがあったからだ。約30年前に免許を取得し、先輩からただ同然で入手したトヨタKP61スターレットやトヨタAE86カローラレビンでドリフトの練習をしていた当時、スカイラインGT-Rやスープラはおろか180SXも高嶺の花だった。うまくリヤが流れないのをパワーがないせいにして、シルビアや180SXならもっとうまくドリフトができるハズ……と思いを馳せた。 その後、今はなきチューニング雑誌『ヤングバージョン』の編集部に潜り込み、カスタマイズのイロハを覚えたのも180SXだった。当時の編集部では後期型をデモカーとして所有しており、サーキットを走る企画も多かった。移動中にタイヤが取れたり、タービンのオイルラインが折れて走行不能になったのも、今となってはいい思い出だ。
職業柄、HCR32スカイラインGTSタイプMやFD3S RX-7、そしてホンダAP1 S2000などさまざまな国産スポーツモデルを乗り継いだ。100万円以下の中古車もごろごろ転がっていたシルビアや180SXを買うチャンスは幾度となくあったが、いつでも買えると先延ばしにしていた。そうしているうちに多くの個体はドリフトなどで廃車となり、また海外へと流れていった。 タマ数が少なくなった影響で、近年では180SXの中古車相場も上昇し続けている。筆者が手に入れたのは半年前で、すでに手軽に買える国産スポーツではなくなっていた。しかし、取材で訪れた千葉県松戸市のシルビア専門店『ガレージミラルダ』に偶然あった、下取りをしたという中古車を見せてもらい、購入を決断した。決め手となったのは、チューニング内容が把握でき、しっかりメンテナンスされている個体だったから。いわゆる“即ドリ仕様”だったことも購入を後押しした。