デメリットを知った上で高齢者にお薦めの輸入EVを解説
ペダルの踏み間違いによる、高齢者が加害者になる交通事故が頻発している。そこで救世主となるのがEVだ。理由は回生ブレーキにより、アクセルを踏めば「進み」、離せば「減速する」という構造にある(モデルによってはパドル操作で回生減速をコントロールする車種もあり)。
クルマの運転はアクセルとブレーキの操作以外にもさまざまな操作が必要になるが、筋力の低下などにより加齢に起因したペダルの踏み間違いは実際に増えているのが現状だ。ズバリ、EVが高齢者にお薦めな理由がそこにある。本記事では、EVに幅広い知見をもち、日本EVクラブ副代表を務める自動車評論家の御堀直嗣が、デメリットも交えながら高齢者に薦めたい輸入車EVを紹介する。
GLCベースがちょうどいいサイズのミドルクラス電動SUV
【メルセデス・ベンツEQC】
メルセデス・ベンツが日本へ最初に導入した電気自動車(EV)がEQCだ。これは、エンジン車のSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)であるGLCのプラットフォームをベースに開発され、同じ工場で生産されている。
外観はエンジン車とは区別がなされているが、室内に乗り込めばいつものメルセデス・ベンツという印象で特別なものはあまり感じさせない。ちなみにフォルクスワーゲンのe-ゴルフも同様の考え方である。
つまり、エンジンかモーターかではなくメルセデス・ベンツであるかどうかが重要との考え方だ。
したがって、EQCを運転してもこれといったEVらしさはあまり実感しない。もちろん、静かで、加速は滑らかだが、たとえばSクラスに搭載されている新開発の直列6気筒ガソリンターボエンジンは、モーター機能付き発電機(ISG)と電動スーパーチャージャーを、ターボチャージャーとともに装備することで、あたかもモーターのような鋭い加速を体感させる。
EQCのメリットとデメリットという視点でいえば、以上のようにEVらしさよりメルセデス・ベンツらしさを感じさせる走行感覚であることが良さでもあり、EVらしさに対する期待への物足りなさでもあるといえそうだ。
ドライブモードの「B」レンジを使えばワンペダル操作で速度調整できる
【プジョーe-208/e-2008】
プジョーe-208とe-2008は、同じ電気駆動系を使うハッチバックEVとSUVタイプのEVだ。車体の違いにより車両重量が異なり、一充電走行距離でe2008のほうが若干短い以外、走行感覚は非常に近いものがある。ひと言でいえば、エンジン車の時代から共通の、運転して壮快に思える走りの活発さがある。
SUVのe-2008はより車高が高くなるのだが、ハッチバックのe-208と変わらぬクルマとの一体感を覚えさせる。両車とも、運転を楽しめるEVだ。ワンペダル操作がとくに採用されているわけではないが、DレンジではなくBレンジで運転すれば、回生を利用した運転が可能だ。
併売されるエンジン車と共通の車体を使うが、EVとしてよく仕立てられている。後席の足もとに駆動用バッテリーを置かない設計により、後席もしっかり足を下げて着座でき快適だ。
販売価格も輸入車のEVとしてもっとも安価な部類であり、手に入れやすい。ほとんど文句のない仕上がりである。
あえてデリットとして言うことがあるとすれば、国産EVのようなヴィークル・トゥ・ホーム(VtoH=EVから自宅へ電気を供給する機能)が考慮されない点だ。しかしこれは、プジョーだけの話ではなく、輸入EVに共通する課題といえる。
輸入車として量産EVを初導入、サスティナブルを意識したクルマづくりも!
【BMW i3】
BMW i3は、輸入車としていち早くEVの本格導入を行った。排出ガスゼロというだけでなく、内装材に植物繊維やリサイクル素材を使うなど、クルマ全体が環境を意識させるつくりとなっている。
車体は、本格的に炭素繊維を主体に骨格が作り込まれ、EVとしては異次元に軽量な仕上がりになっている。タイヤも、ブリヂストン製の特殊寸法を採用し、低転がり抵抗とグリップの両立という新たな提案を行っている。
面白いのは、4ドアだが前のドアを開けてから後ろのドアを開ける観音開きの方式をとること。基本的には市街地向けの2ドアハッチバックという構想で、後席への乗り降り改善のために観音開き式の後ろのドアを採用する。そのため、後席への乗降ではつねに前のドアを開けなければならず、一般的な4ドアと同様に考えると、不便に感じるだろう。
環境意識と未来を体感できるEVだが、あえてデメリットを挙げるなら、専用寸法のタイヤであるだけに他銘柄のタイヤや、ことにスタッドレスタイヤへの交換で使えるタイヤの種類が限定されることだ。