スペックを九九を覚えるかのごとく丸暗記した
ちなみに、スーパーカーグッズと化したモノについて具体的に説明していこう。子どもたちが学校に持っていく文房具(筆箱、下敷き、消しゴム、鉛筆など)はもちろん、衣類、ベルト、バッグ、腕時計、お茶碗、マグカップ、レコード、ゴミ箱、トランプ、コインケース、塗り絵といった日用品や生活雑貨までもが、フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティ、ランチア、デ・トマソ、ロータス、ポルシェ、BMWなどの写真、イラスト、エンブレムですっかり彩られた。 往時に収集したスーパーカーグッズをいまでも大切にしているコレクターが筆者の周りにいるので、スーパーカーブーム全盛時に灯された火の熱量はハンパないものだったのだ。
スーパーカーグッズが大量に登場した恩恵で、実車を所有していなくても楽しめた点がスーパーカーブームの“いいところ”。身近なところでは、かつて20円で販売されていたスーパーカー消しゴムがあった。
そして、スーパーカーカードもカー消しと同じように入手・収集しやすいアイテムの代表格。裏側に書いてあった最高出力や最高速度といったスペックを、九九を覚えるかのごとく丸暗記するのが通例だった。 大小さまざまなカードが販売されていたが、駄菓子屋などでカードを買った際に、すでに所有しているモノをゲットしてしまったときに友達と交換していたという方も少なくないだろう。スペックの丸暗記に使ったエネルギーを勉強のほうに注いでいたら、筆者の低空飛行人生がもう少しばかり羽ばたいたのかもしれない。
最高速度が下がると誰もが一瞬にして夢から覚めた
1970年代後半はオイルショックや排気ガスによる大気汚染が問題となり、スーパーカーを始めとする高性能車を取り巻く状況が一段と厳しくなった。スーパーカーブームの全盛期は、1976~1977年までの2年間であったと言われている。カウンタックとの間で頂上対決をしていたフェラーリBBが現実路線を歩み始めたのと同じタイミングで、空前のスーパーカーブームが終焉を迎えようとしていた。
512BB時代のトリプルチョーク・ウェーバーではなく、ボッシュのKジェトロニック燃料噴射を装備し、最高速度が302km/hから約280km/hへと下方修正された512BBiが1981年に登場したのだ。スーパーカーのスペックに一喜一憂していた子どもたちにとって、この現実的な下方修正はまさに寝耳に水といった感じで、誰もが一瞬にして夢から覚めてしまった。
ファミリーで買い物に行くような、ごく普通の百貨店の駐車場でスーパーカーの展示イベントが開催されるほどの熱狂ぶりとなったブームは終焉を迎えてしまった。一部のスーパーカーメーカーは時代の変化に素早く対応し、1980年代、1990年代、2000年代を生き延び、現在も魅力的なモデルを造り続けている。スーパーカーとその関連アイテムが放つ芳醇な世界は、今後も数多くのクルマ好きを魅了していく。