日産/オーテック/ニスモが見せた「本気」の1台
日産のモータースポーツ魂を投入したNISMOロードカーシリーズとして「ノートオーラNISMO」が発表された。電動による走りの楽しさを教えてくれた先代ノートe-POWER NISMOをさらに進化させ、最先端の走りの楽しみを実現。新世代NISMOを具現化したルックスや俊敏さと加速感を持つ。データだけに頼るのではなく「匠」の手によって仕上げられた「クルマ好きのための1台」を、レーシングドライバーであり、かつてNISMO 400Rの開発ドライバーを務めた木下隆之が解説する。
データだけでなく「匠」の感性が作り上げた
日産自動車のコンパクトカー攻勢はとどまることを知らないかのようだ。ノートのフルモデルチェンジを皮切りに、ボディサイズを3ナンバーに拡大した「ノートオーラ」が登場。すでにプラットフォームとe-POWERユニットを共用するキックスが誕生しており、この先にはアリアが控える。電動化社会をリードすると宣言した日産の鼻息が荒いのだ。
さらに戦略の手を休めることはしない。ノートオーラがデビューしたのはつい先日のことだというのに、「ノートオーラNISMO」を投入。返す刀でコンパクト市場に刺客を送り込んできた。ノートオーラNISMOは想像の通り、オーラをベースにしたNISMO仕様には違いないのだが、モータースポーツ部隊のNISMOが独自に開発したモデルとはやや意味合いが異なる。
個性的なモデルを仕立てるオーテック内のNISMOカーズ事業部が開発したモデルであり、レースに参戦するNISMOが空いたもうひとつの手で組み上げたモデルではない。それが証拠に、開発には日産本体が深く関わっており、例えばノートオーラNISMOの開発ドライバーは、かつてGT-Rを仕上げた「匠」神山幸雄氏である。スポーツカーの開発経験豊かな匠が煮詰めているのである。
神山氏とは僕が日産契約時代からの旧知の仲であり、開発の裏話を聞くこともできた。日産本体とオーテックとNISMOの精鋭が仕上げた作品であることを知ったのである。
ハンドリングや加速感に手を加えた本格派
ちなみに、先代ノートのNISMO仕様も人気が高く、グレード構成ではノート全体の14%に達することもあったという。この手の個性的なスポーツモデルとしては異例の数字だ。しかもノートにe-POWERが加わってから飛躍的に高まったというから、ハイブリッドとNISMOの親和性は高いのである。
ノートオーラNISMOは徹底して走りが鍛え上げられている。キャッチフレーズは「瞬足の電動シティレーサー」だという。エアロデザインは細部にまで及んでおり、しかも視覚的な刺激だけではなく空力的な効果も狙っている。ハンドリングを鍛え上げているだけではなく、加速感にまで手を加えているというから腰を抜かしかける。
動き始めてまず印象的だったのは、そのハンドリングである。初めてのドライブは写真撮影のための移動……という地味なアクションだったのだが、その瞬間にすでにノートオーラNISMOが熱い世界を目指していることが理解できた。駐車場でするするっと移動させただけで、ノーズは鋭く反応し、ロールらしい不快感がなかったのである。
ロールを抑えた走りにパワステの味付けも抜群!
そんなだから過激に走らせても期待を裏切らない。フロントノーズは鋭くインを刺しつつ、テールがズルズルと流れて旋回性を高める。姿勢は常にフラットライドであり、過剰なロール感はない。外から撮影した動画映像では、もちろんロールはしているのだが、ステアリングを強引に切り足しているドライバー本人は、そのロールを感じないのである。
理由はロールスピードにある。スプリングレートの引き上げ率はフロントが36%、リヤで25%なのだが、それに加えてショックアブソーバーの減衰力が初期から発揮している効果が影響している。リヤに組みこんだ高価なモノチューブ式ダンパーは反応が鋭いようで、グラグラッと腰砕けのようなアクションにならないのである。スタビリティをも失わない。ちなみに、乗り心地も想像を裏切るほど優しい。脳天を刺激するような突き上げはなかった。
細かいところでは、電動パワーステアリングの味付けのリチューンも好感触だった。直進時の納まりがよく、旋回中のインフォメーションも高い。結果としてタイヤの感覚が伝わってくる。グリップの高さに比例した手応えが感じられた。