高出力がモータースポーツでは仇に!? ドラシャ破損が続出
サスペンションはこの当時ホンダのお家芸となっていた4輪ダブルウイッシュボーン式を採用。ホンダとして当時すでに慣れたサスペンション方式にダンパーに力がかからないアーム配置とすることで、タイヤの性能を十二分に発揮させる、文字通り切れ味鋭いハンドリングに仕立てられていた。
余談ながらモータースポーツでも活躍したCR-Xだったが、前述の通りルーフが重いグラストップは嫌われたうえ、ジムカーナなどでは「ダブルウイッシュボーンのドラシャ(ドライブシャフト)を折るな!」というメカニックの声がソコカシコから飛んでいたという。その理由はステアリングの舵角が大きいときに高トルクを与えると、破損する例が多かったのだ。 さらにダブルウイッシュボーンのドラシャの交換は面倒で、各チームのメカニックが奮闘していたことが懐かしい。ストラット式の倍の時間がかかるとか。それゆえジムカーナ場では、誰かに声をかければCR-Xの予備のドライブシャフトを売ってもらえるほど、定番の交換部品だった。
マイチェンで待望のDOHC VTECを搭載したSiRが登場
1988年8月にABS(当時の表記はALB)、AT車に「P」のポジションでないとキーが抜けなくなるなどのインターロック機構が備わったCR-Xだが、クライマックスは1989年2月。ついにインテグラで話題沸騰となった、脅威の圧縮比11.1の自然吸気B16A型エンジンが「Si」の上位グレード「SiR」に搭載された。 100ps/Lを自然吸気ながら発揮するB16A型直4エンジンは160ps/15.5㎏-mを誇った。当時のF1技術がフィードバックされたものであり、CR-Xにこそふさわしいと国内外のメディアで騒がれていたわけだが、ついにCR-Xに搭載されたのだ。
加えて、新開発のビスカスカップリング式LSDやABS、本革シートや本革ステアリングが採用され、ハイマウント・ストップランプも装着。高性能な195/60R14タイヤとフロントには専用ベンチレーテッド・ブレーキを採用した。それまで185/60R14タイヤだったCR-Xも、見栄えではなくて走りのためにタイヤサイズをアップし、スポーツ性に磨きをかけた。 このサイバーの最終仕様は、見るからに走る気満々で乗って楽しい、走って楽しい一台だった。この時代のホットハッチの先鋒だった。
走らせると、まあ、よく曲がる! 当時のFFスポーツの定石的な乗り方をすると、曲がり過ぎるぐらい回答性が良いと感じられた。もちろんFFの癖は顔を出したが、それはサイバーのトレッドやホイールベース、重量バランスやサスペンションのセッティングなど、ホンダが意地を見せた証。おそらく、FFはスポーツ走行はできないなんて誰が言ったんだ、と。 ボディサイズの違いからも明らかなように、シビックの3ドアとはまったく違う仕立てとなっており、サイバーは気持ちよい走りに特化させるべく作り上げたモデルなのだ。
サイバーはFFながら走る楽しさを教えてくれた希有な存在に!
同様に、誤解されている方もいるようだが、初代バラードスポーツCR-Xも単にバラードのスポーツモデルではなかった。バラードCR-Xのデビューは1983年6月(発売は7月)で、2代目4ドアのバラードは1983年9月(発売は10月)。つまりバラードCR-Xの方が4ドアセダンのバラードよりも先にデビューしているのだ。
ボディサイズもバラードCR-Xが全長×全幅×全高が3675×1625×1290mm、ホイールベース2200mm、比較対象となる3ドアの3代目シビックが3810×1630×1340mm、ホイールベース2380mmなので、バラードCR-Xは一段とスポーツにこだわって作られたことがわかる。つまり「バラード」「サイバー」ともにCR-Xがどれほど本気で開発され、ホンダにとっては重要な車種であったが想像してもらえるだろう。
こうして意欲的に開発されたCR-Xだが、輝いた時期はなんて短いのだろうか。だが、先代はバラード、後継がデルソルを名乗ったCR-Xだったが、いまも強く輝いているのは「サイバー」がもたらす走り。操るクルマに乗るその時間が楽しかったという証だと思っている。
サイバーCR-Xは、短い期間ながらも強烈な輝きさを発揮したスポーツだった。
■CR-X SiR(2代目サイバー)
ボディサイズ
全長×全幅×全高=3800×1675×1270mm
ホイールベース=2300mm
トレッド前/後=1450/1455mm
エンジンタイプ=直列4気筒DOHC
総排気量=1595cc
最高出力=160ps/7600rpm
最大トルク=15.5kg-m/7000rpm
トランスミッション=5速MT
サスペンション 前後=ダブルウィッシュボーン/
ブレーキ 前/後=ベンチレーテッドディスク/ディスク