切れ味鋭い走りで新風を巻き込んだサイバー
1987年9月、バブル真っ盛りのなかに登場し、「サイバー」の呼称で愛された2代目CR-X。先代のバラードスポーツCR-Xの後継モデルであり、4ドアセダンのバラードシビックの販売終了もあってホンダCR-Xの名を名乗ることとなる。
シビックより小柄なボディサイズで走りの切れ味を実現
その理由は、ベース車両はワンダーシビックなのだが大きく作り分けられているのが特徴だ。ボディサイズは、シビック3ドアが全長×全幅×全高が3965×1680×1335mm、ホイールベース2500mmなのに対し、CR-Xは同3775×1675×1270mm、同2300mmと、ひとまわり小さく仕立てられたことでホットハッチらしい切れ味を実現していたからだ。
スタイリングはいかにも空力が良さそうなフラッシュサーフェイスで、テールラインの整流効果もあってCD値=0.30を達成した。ルーフには解放感あるグラストップ、リヤハッチにはエクストラウインドウと呼ばれる、外部が見えるように透明化されたハッチを採用することで後方視界を確保。余談だが、このエクストラウインドウは初代&二代目インサイトにも同じ手法で採用されている。
とくにグラストップはルーフのほぼ全体がガラスで、シビックのガラスサンルーフとの比較では1.7倍という広さ。キャノピーに包まれる天井部も戦闘機のコクピットのようなムードに一役買っている。ただ多層構造の熱反射ガラスが用いられており、本格的にジムカーナなどのモータースポーツを楽しみたい方からは「重いし割れる」とグラストップは避けられていた。
高回転&高出力のZC型など画期的なエンジンをラインアップ
そんなサイバースポーツCR-Xに当初投入されたエンジンは3種類。まずは100ps/12.8㎏-m(1.5X/4速AT)と105ps/13.2㎏-m(1.5X/ 5速MT)のD15B型1.5L直4SOHC16バルブ。このエンジンにはカムシャフトをオフセットすることで点火プラグをセンターに設ける機構を搭載し、ワンカム4バルブを実現。出力と燃費のバランスを高次元で実現したユニットに仕上がっていた。
高出力がモータースポーツでは仇に!? ドラシャ破損が続出
サスペンションはこの当時ホンダのお家芸となっていた4輪ダブルウイッシュボーン式を採用。ホンダとして当時すでに慣れたサスペンション方式にダンパーに力がかからないアーム配置とすることで、タイヤの性能を十二分に発揮させる、文字通り切れ味鋭いハンドリングに仕立てられていた。
余談ながらモータースポーツでも活躍したCR-Xだったが、前述の通りルーフが重いグラストップは嫌われたうえ、ジムカーナなどでは「ダブルウイッシュボーンのドラシャ(ドライブシャフト)を折るな!」というメカニックの声がソコカシコから飛んでいたという。その理由はステアリングの舵角が大きいときに高トルクを与えると、破損する例が多かったのだ。
マイチェンで待望のDOHC VTECを搭載したSiRが登場
1988年8月にABS(当時の表記はALB)、AT車に「P」のポジションでないとキーが抜けなくなるなどのインターロック機構が備わったCR-Xだが、クライマックスは1989年2月。ついにインテグラで話題沸騰となった、脅威の圧縮比11.1の自然吸気B16A型エンジンが「Si」の上位グレード「SiR」に搭載された。
加えて、新開発のビスカスカップリング式LSDやABS、本革シートや本革ステアリングが採用され、ハイマウント・ストップランプも装着。高性能な195/60R14タイヤとフロントには専用ベンチレーテッド・ブレーキを採用した。それまで185/60R14タイヤだったCR-Xも、見栄えではなくて走りのためにタイヤサイズをアップし、スポーツ性に磨きをかけた。
走らせると、まあ、よく曲がる! 当時のFFスポーツの定石的な乗り方をすると、曲がり過ぎるぐらい回答性が良いと感じられた。もちろんFFの癖は顔を出したが、それはサイバーのトレッドやホイールベース、重量バランスやサスペンションのセッティングなど、ホンダが意地を見せた証。おそらく、FFはスポーツ走行はできないなんて誰が言ったんだ、と。
サイバーはFFながら走る楽しさを教えてくれた希有な存在に!
同様に、誤解されている方もいるようだが、初代バラードスポーツCR-Xも単にバラードのスポーツモデルではなかった。バラードCR-Xのデビューは1983年6月(発売は7月)で、2代目4ドアのバラードは1983年9月(発売は10月)。つまりバラードCR-Xの方が4ドアセダンのバラードよりも先にデビューしているのだ。
ボディサイズもバラードCR-Xが全長×全幅×全高が3675×1625×1290mm、ホイールベース2200mm、比較対象となる3ドアの3代目シビックが3810×1630×1340mm、ホイールベース2380mmなので、バラードCR-Xは一段とスポーツにこだわって作られたことがわかる。つまり「バラード」「サイバー」ともにCR-Xがどれほど本気で開発され、ホンダにとっては重要な車種であったが想像してもらえるだろう。
こうして意欲的に開発されたCR-Xだが、輝いた時期はなんて短いのだろうか。だが、先代はバラード、後継がデルソルを名乗ったCR-Xだったが、いまも強く輝いているのは「サイバー」がもたらす走り。操るクルマに乗るその時間が楽しかったという証だと思っている。
サイバーCR-Xは、短い期間ながらも強烈な輝きさを発揮したスポーツだった。
■CR-X SiR(2代目サイバー)
ボディサイズ
全長×全幅×全高=3800×1675×1270mm
ホイールベース=2300mm
トレッド前/後=1450/1455mm
エンジンタイプ=直列4気筒DOHC
総排気量=1595cc
最高出力=160ps/7600rpm
最大トルク=15.5kg-m/7000rpm
トランスミッション=5速MT
サスペンション 前後=ダブルウィッシュボーン/
ブレーキ 前/後=ベンチレーテッドディスク/ディスク