過去には2種類の音を発するホーンが提案されたことも
30年近く前に、米国のゼネラル・モーターズ(GM)が開発したインパクトと呼ばれる試作のEVは、ホーンを2種類備えていた。ひとつは、エンジン車と同じ警告を与える強い音色だ。もうひとつは、歩行者などへEVの存在を知らせる軽い音色で、パフパフゥ〜〜と、それを聞いて思わず笑顔になってしまうようなものだった。このホーンを使えば、歩行者も運転者も互いに苛立ちを覚えず、相手を注意して通行することができるのではないか。それこそ、クルマと人が近しい関係になれるきっかけにもなる。
ところが、日本ではホーンをふたつ装備することが禁止されている。理由は、その昔の暴走族が派手なホーンを鳴らすことを取り締まれるようにするためだ。
それはそれで、意味があったことなのだろう。だが、それだけのことで、擬音を出さなければならないという法律を設けることは、本末転倒である。監督官庁も自動車メーカーも根本を解決せず、安易な策に溺れているとしかいいようがない。
さらに、各自動車メーカーは自社独自の擬音をつくり、それを「よい音だ」と自慢する風潮さえある。しかし、本来の目的は目の不自由な人がEVやHVの接近を知るためのものであり、それであるなら各社共通の音色や音量であるべきだ。さまざまな擬音があったら、街の騒音を含め何に危険を感じたり、意識したりしなければならないかが、目の不自由な人はわからなくなる。それほど、自動車メーカーは障害を持つ人に心配りのできない、自己満足に溺れる企業体質でもあるのだ。とても福祉社会とはいえないだろう。
脱炭素社会へ向け、これからさらにEVの導入が促されていくはずだが、自動車メーカー各社は共通の擬音の採用へ動くべきである。それこそ、自動車工業会が為すべき事業であろう。