モーター走行中であることを知らせるために登場
モーター走行するクルマに対し、低速走行時にクルマが接近することを知らせる何らかの音を出すことが推奨され、自動車メーカー各社は独自に擬音を創作し車外へ流してきた。
エンジン車のような排気音がない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)、あるいは低速域ではモーター走行となり同様に排気音のしないハイブリッド車(HV)は、接近の様子を耳で確認できない。そのため、とくに目の不自由な人から懸念の声が上がり、擬音の採用となった経緯がある。
聴力が衰えた高齢者のために擬音の音量を上げられない事情
それらは、30km/h以下くらいの速度まで音が外へ流されるが、その音量や音色については、エンジン車が同様に低速で走行した状況と比べ、同等以上であることが確認されている。エンジン車自体、今日では低速においてほとんど排気音が耳に届かないモデルもあり、EVやHVなどの擬音のほうがよく聞こえる状況にもなっている。
また、せっかく排気音のしないEVなどが普及することにより、幹線道路や住宅地などでの騒音公害を解消できるにも関わらず、擬音を大きくすることは住民に対する公害の拡大につながり、住環境を悪化させる。ことに幹線道路においては、排気音と比べてもタイヤ騒音がうるさいほどだ。
つまり、大気汚染や気候変動といった環境問題だけでなく、住環境そのものに対する騒音規制は世界的にも強まる傾向にあるのである。
ではどうすればいいのか。
過去には2種類の音を発するホーンが提案されたことも
30年近く前に、米国のゼネラル・モーターズ(GM)が開発したインパクトと呼ばれる試作のEVは、ホーンを2種類備えていた。ひとつは、エンジン車と同じ警告を与える強い音色だ。もうひとつは、歩行者などへEVの存在を知らせる軽い音色で、パフパフゥ〜〜と、それを聞いて思わず笑顔になってしまうようなものだった。このホーンを使えば、歩行者も運転者も互いに苛立ちを覚えず、相手を注意して通行することができるのではないか。それこそ、クルマと人が近しい関係になれるきっかけにもなる。
それはそれで、意味があったことなのだろう。だが、それだけのことで、擬音を出さなければならないという法律を設けることは、本末転倒である。監督官庁も自動車メーカーも根本を解決せず、安易な策に溺れているとしかいいようがない。
さらに、各自動車メーカーは自社独自の擬音をつくり、それを「よい音だ」と自慢する風潮さえある。しかし、本来の目的は目の不自由な人がEVやHVの接近を知るためのものであり、それであるなら各社共通の音色や音量であるべきだ。さまざまな擬音があったら、街の騒音を含め何に危険を感じたり、意識したりしなければならないかが、目の不自由な人はわからなくなる。それほど、自動車メーカーは障害を持つ人に心配りのできない、自己満足に溺れる企業体質でもあるのだ。とても福祉社会とはいえないだろう。