短命に終わった2代目NSXに思うこと
2代目NSXが2022年12月、生産開始からわずか7年弱でその歴史に幕を閉じる。 2021年8月3日、世界350台(うち北米300台、日本30台、その他20台)限定の最終モデル「タイプS」の先行発表とともにホンダから告げられたこのあっけない終焉に、ホンダファンならずとも思う所は多いだろう。
そんな2代目NSX生産終了の報に対する筆者の思いは、「最初から最後まですべてが早すぎ、遅すぎた」という、矛盾に満ちたものだった。 2代目NSXの国内デビューは2016年8月である。発売は翌2017年2月だが、最大の市場であり新たな生産拠点となった北米では2015年1月のデトロイトショーで量産モデルが世界初公開され、翌2016年4月より生産開始。第一号車が翌5月に納車されている。
コンセプトモデルの段階で方向性が確定していた
しかしながら、そのコンセプトモデルが発表されたのは、さらにさかのぼること3年、2012年1月のデトロイトショーだった。この時点ですでに、V6エンジンとモーター内蔵デュアルクラッチトランスミッションをミッドに搭載し後輪を駆動、2基のモーターで前輪の左右を独立して駆動する「スポーツハイブリッドSH-AWD」を搭載。高度なトルクベクタリングを実現するという基本的な走りのメカニズム、またデザインの方向性は固められていた。
マイナーチェンジ後はハイブリッドスーパースポーツに進化
とは言え、スーパースポーツの世界において、このハイブリッドシステムは確かに革新的なものだった。事実、他社からハイブリッドスーパースポーツの量販モデルが発売されるのは、2019年5月のフェラーリSF90ストラダーレまで待たねばならず、その後もマクラーレン・アルトゥーラやフェラーリ296GTBなど、NSXのフォロワーはごく限られている。
一方で、アルミフレーム&カーボンボディに、フロントモーターと1.5L直3エンジンを搭載するPHVスーパースポーツのBMW i8は、NSXより1年以上早い2013年9月に市販モデルがデビューしており、2020年4月に生産終了となっているのだが。
「人間中心」のコンセプトはパッケージングにこそ辛うじて留められていたが、視界の広さや日常域での扱いやすさは著しく退化。今やスーパースポーツには必須アイテムと言えるフロントリフターは最後までオプション設定さえされなかった。
2代目の新車価格は初代NSX-Rの約2倍相当
またデビュー当時2370万円という、初代NA2型NSX-Rの約2倍に相当する車両本体価格も、購入ユーザーを限定する要因となったのは想像に難くない。しかもこの価格帯は、ポルシェ911ターボおよびGT3、フェラーリのV8 FRモデルやランボルギーニ・ウラカンといった、抜群のブランド力を持つモデルと直接競合することになる。
そして、多くのユーザーやジャーナリストから指摘された、内外装の質感の低さである。前期型はさらに、「スポーツハイブリッドSH-AWD」のトルクベクタリング制御が不自然なうえ、乗り心地や加減速の過渡特性も大味な傾向にあった。
最終モデルの「タイプS」はシャーシやミッションの制御も見直しがされている
2022年モデルにして最終モデルとなる「タイプS」では、エンジン単体でも最高出力と最大トルクは527ps&601N・m、システム総合では608ps&667N・m(いずれも北米仕様の数値を換算)にアップ。これに合わせて内外装やシャーシ、「スポーツハイブリッドSH-AWD」に加えて9速DCTの制御も見直される模様だ。
次のNSXが生まれることを願わずにはいられない!
そしてホンダは2021年4月、2040年にグローバルでのEV・FCV販売比率を100%とする目標を、三部敏宏新社長自ら発表している。しかもそれ以前より、ホンダの四輪車事業の営業利益率は1%台で低迷しており、F1撤退や日本・狭山やイギリス・スウィンドンなど工場の閉鎖、S660やオデッセイ、レジェンド、クラリティなどの生産終了その他、リストラ策の発表が相次いでいた。
だから今回のNSX生産終了も「やっぱりか」「ようやくか」と、もはや諦観の境地で受け止めざるを得なくなっている。それは、残念、哀しい、寂しい、悔しい、腹が立つ、などといった負の感情の先にあるものだ。
2代目NSXの生産終了まで、あと1年4カ月。そのことを心から惜しみつつ、最後に「タイプS」を設定してくれたことに感謝しながら、そう遠くない未来に次のNSXが生まれることを願わずにはいられない。
筆者個人としては、初代NSXユーザーも納得させる軽さを、セルロースナノファイバーなど易リサイクル性が高くCO2削減にも寄与するサステイナブルな素材で実現し、かつF1さながらの甲高いホンダミュージックを奏でる、高回転高出力型のゼロ~マイナスエミッション水素エンジンを搭載した、次のNSXはそんなスーパースポーツであってほしい。それこそがまさに、ホンダが企業理念として掲げる「夢」ではないだろうか。