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祝、トヨタ「ル・マン4連覇」! 望むべくはあと2連覇して欲しい「切実な理由」とは

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TEXT: 大内明彦  PHOTO: トヨタ自動車/Porsche AG/大内明彦

HVの信頼性は確かに鍛え上げられたが 

 たび重なる対ポルシェ戦での惜敗が、自己を再考するきっかけとなったのは皮肉な流れだったが、下準備としての走り込み、作り込みを十分以上に行ったことが、耐久レースに対する信頼性を確実に引き上げていた。HVプロトTS050で臨んだ2018年、ついに念願のル・マンを初制覇。その完成度の高さは昨2020年まで引き継がれ、気がつけばル・マン史上でも稀なル・マン3連覇という傑出した戦績をもたらしていた。トヨタHVプロトTS050の2018年仕様 しかし、レース内容を仔細に検討すると、必ずしも完全だったとは言えない側面も見せていた。初優勝となった2018年こそ、とくにトラブルもなくレースを進め、ポルシェ、アウディ撤退後の敵がいないル・マンなら勝って当たり前、という辛辣な見方もされた。だが、走破周回数を見れば、仮にポルシェが参戦していても十分に優勝できる戦績だったことは見逃せない実績だった。

レースには常に戦況とトラブル対処が関係してくる

 2019年は、24時間レースを終始リードしていた7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)にタイヤ内圧インジケーターのトラブルが発生。結論からいうと、タイヤそのものに異常はなく、インジケーターが内圧の低下を表示したシステムエラーだったが、タイヤ交換のため2度のピットインを強いられ、2番手に順位を下げる展開となっていた。ゴールまであと1時間という状態だっただけに、遅れを取り戻す走りを展開したにもかかわらず、2位でチェッカーを受けるかたちになっていた。トヨタHVプロトTS050の2019年仕様 そして昨2020年。やはりスピードで優位に立ってレースをリードしていた7号車(コンウェイ/小林/ロペス)にターボトラブルが発生。過去、壊れたことのない部位で、修復のためピットで約30分ほどを費やすかたちとなったが、この遅れを最後まで取り戻すことができず3位でゴール。ル・マンになるとなぜか不運に見舞われる7号車で、ドライバー、ピットクルーの落胆ぶりは直視できないほど大きなものだった。トヨタHVプロトTS050の2020年仕様 流れの上では、本来勝たなくてはいけない本命車両がトラブルで後退し、語弊はあるが、抑えの車両が3年連続で優勝する流れがトヨタ3連覇の内幕だった。速いクルマが順当に勝つ。こうした素直で単純明快なテーマを背負ったレースが、トヨタにとっての今年のル・マンだった。

 こうした意味では、スピードで優る7号車がトップを守ったままチェッカーを受けたのは、長年の呪縛を吹き飛ばす結果だったが、実際には、快走に見えた1-2フィニッシュも綱渡りの連続だった。

 レースも残りあと6時間。このタイミングで8号車に燃料系のトラブルが発生した。タンク内に燃料が十分残っているにもかかわらず、燃料切れの症状を示したのだ。このため、ピットはルーティン周回数(13〜14ラップ)を半分以下に設定。さらに、走りながらドライバーがコンピュータの設定をやり直す対処策を強いられていた。トヨタGR010 HYBRID 7号車と8号車 そして、このトラブルは7号車にも発生。8号車で得た解決策を7号車のドライバーが同じように実行する。結果は、隊列を組んでの1-2フィニッシュだったが、対応策が不適切なものだったら、2台ともリタイアという最悪のシナリオも十分考えられるところだった。

世界一の覇を競う「ハイパーカー」規定とは

 ところで、今年勝ったトヨタGR010だが、このマシンは今年から適用されたハイパーカー規定に沿うニューマシンである。すでにル・マン前のWEC戦に投入され、順調な滑り出しを見せていた車両だが、読者のなかには、いきなりハイパーカーと言われても、それがどんなクルマなのか、知らない人も少なからずいることだと思う。トヨタGR010 HYBRID   ル・マン/WECシリーズにおけるハイパーカーとは、2012年以降採用されてきたトップカテゴリー、ハイブリッドプロト(HVプロト)規定に代わる車両規定である。このハイパーカー規定実施の裏側には、HVプロトがあまりに特化したレベルでの戦いとなり、参戦可能な技術を持つメーカーが極端に少なくなったこと、また車両開発に高額なコストを要することなどもあった。

 そこでHVプロトに代わってより多くのメーカーが参画できるよう、車両の技術(性能)水準に制限を加えた車両規定とし、それをハイパーカー規定としたのである。ちなみに「ハイパーカー」とは、量産車の世界で既存のスーパーカーを上まわる超弩級の性能を持つスポーツカーに対して、近年使われ始めた言葉でもある。

 振り返れば、1990年代初頭にグループCカー規定が極端に先鋭化、F1並の車両となったことから参加メーカーを極端に制限するかたちとなった反省に立ち、市販高性能スポーツカーに焦点を当てるGTカー規定が制定された状況とよく似た経緯である。技術的にきわめて特化したHVプロトから、市販高性能車のトップレベルを想定したハイパーカーに主役を置き換える流れなのである。

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