関係省庁との協議を進めるも期日までに回答が得られず
さらにF1側も、日本GPの開催を熱望していたという。そのため、同団体のステファノ・ドメニカリCEOを始め、さまざまな協力を得られたという。そのため、もっと早い段階で開催可否の判断をすべきところ、この8月中旬というタイミングまで引き延ばすことができたのだ。
しかし、設定されていた期日までに、入国許可を確約する回答は寄せられなかった。しかも、その具体的な理由は説明されていないようだ。F1日本GPの所管官庁はスポーツ庁であるものの、ビザ発給は外務省、防疫体制を判断するのは厚生労働省、入国の審査は法務省とが行うことになっており、そのどこで判断が遅れたのかは明言されていない。
「具体的な理由はわかりません。しかし期限となる日程までに、回答が得られなかったということです」
そう田中社長は説明する。
東京オリ・パラでは特例が認められたがF1には適用されず
前述の東京オリンピック・パラリンピックに出場する選手、関係者には、数万人分の入国許可が特例で出されたという。しかしF1にはこれが許可されなかったということについても、田中社長は「残念です」と語っている。
「競技ごとに特性や条件が違うとは思いますが、一般的にも、個人的にも、残念ですよね。F1も世界的なスポーツですから、実際に観たいですよね。(所管官庁である)スポーツ庁にも、F1の重要さは理解していただいていたと思います。しかし約1500人という数は、国際行事であるオリンピックを除けば、一番多かった。なので、慎重にならざるを得なかったんだと思います」
ヨーロッパを中心に、今年もこれまでF1が開催されてきた。なかには、ほぼ満員の観客を迎えて開催されたグランプリもある。また日本でも、オリンピック以外にも、サッカーや野球の試合が開催されており、選手のなかには特例での入国が認められた外国人もいる。しかし今の日本では、F1の開催は難しかった。
「モータースポーツの公益性、文化という意味での成熟度は、ヨーロッパとは違います。ここは、皆さんと共に成長させていかなければいけないと痛感しています」と、田中社長はそう想いを口にした。
「公益性という観点では、自動車産業は日本の基幹産業ですから、そこを訴えてきました。そういう意味ではF1を日本でやる意味を理解していただけたと思います」
残念ながら今年の開催は実現できなかった日本GPだが、2024年まで開催契約が延長されている。
「この2年間、鈴鹿でF1を開催できなかった分、来年以降の同グランプリをより充実させる」と、田中社長は語った。
鈴鹿サーキット創立60周年を祝う「2021 F1日本GP」開催を願う!
「来年以降の3年間、F1日本GPの開催を継続することが決まっています。2022年は鈴鹿サーキットとしては創立60周年を迎えます。さらに楽しんでいただけるように、そしてこれまでの御礼も兼ねて、特別なグランプリを作っていきたいと思います」と田中社長。
今年はホンダのF1最終年、しかもチャンピオン争いを繰り広げている真っ只中だ。さらに角田裕毅選手もF1ドライバーになって初めての日本GPになるはずだった……。彼にとってはレーシングスクール時代に、かなりの周回数をこなしたサーキットである。ホンダ、そして角田選手の活躍を見たかったという想いは誰もが同じだろう。
鈴鹿サーキットも、もちろん開催を実現するために最大限の努力をしてくれた。F1も、それ以外の各方面からも、さまざまなサポートがあった。しかし時世柄、どうしても乗り越えられない壁があったということなのだろう。
今は来年の日本GPが無事に開催され、そして例年以上に素晴らしいグランプリになることを願うしかない。