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五輪はOKでも4輪はダメなの?「F1日本グランプリ」中止の真相とは

観覧車の前を通過するトロロッソホンダのマシン

8月18日、主催者モビリティランドがF1日本GPの中止を発表

 2021年F1日本グランプリ(以下、F1日本GP)の開催断念が発表された。これで2年連続で、日本でF1が開催されないということになった。

 この開催断念という決断に至った背景には、当然新型コロナウイルスの感染拡大がある。昨年から世界的な流行を見せている新型コロナウイルスだが、今もその勢いは収まることなく、日本ではここにきて感染者数が急拡大している。

外国人ドライバー&チーム関係者の特例での入国許可が得られず

 日本は新型コロナウイルスの水際対策として、指定された国や地域からの外国人の入国を「特段の事情」がない限り、拒否している。結論から言えば、F1はこの「特段の事情」とはみなされず、特例での入国許可がなかなか下りなかった。

 しかしF1側としても、開催可否の判断をこれ以上先送りすることはできなかった。F1の開催には膨大な機材が必要であり、それを輸送する手筈を整えなければいけない。また、もし日本で開催できないとなった場合、年間の総レース数を減らさないためにも、代替開催地を選定し、その開催に向けた準備も進めなければいけなかった。

 これについて鈴鹿サーキットを運営するモビリティランドの田中 薫社長は、会見で次のように説明している。

「一番の問題は、日本は基本的に外国人の入国を認めていません。F1にしてもそのほかのスポーツにしても、外国人の選手がやってくるためには、(特例で)入国ビサを取得しなければいけません。この確定が得られなかったのがネックでした。開催拒否の判断をしなければならないタイミングがあります。そのタイミングで入国の見通しが立たず、最終的には私が(開催断念を)判断したということになります」

ソーシャルバブル構築による安心安全な運用に一縷の望みを期待したのだが……

 F1開催のために入国する必要がある外国人の数は、約1500人と言われている。これは東京オリンピック・パラリンピックを除けば、単一のイベントとしては最大規模の入国人数である。その許可を得るのが簡単ではないのは、容易に想像できよう。

 とはいえ鈴鹿サーキット側も、なんとか開催を実現すべく、さまざまな準備を整えていた。特例での入国が認められるためには、もし仮に入国した外国人の中に新型コロナに感染している人物がいたとしても、その影響が日本国民に及ばないように徹底しなければいけない。つまり、ソーシャルバブルの構築が必要不可欠である。

 鈴鹿サーキットはこのため、関係者の到着空港を限定し、そこから鈴鹿までのバス輸送システムを構築。さらに宿泊施設も一棟借りまたはフロア貸切という形で、ほかの宿泊客との接点を完全に封じる施策を作り上げた。当然、ホテルとサーキットの間も、完全に隔離された状態で移動しなければならない。田中社長は「求められたモノが100ならば、それはやり切ったと思います」と語っている。

 しかもF1は、各国を転戦するにあたってこのソーシャルバブルを日常的に構築しており、その運用にも慣れている。開催が実現していたとしても、完璧なバブルの運用ができただろう。

関係省庁との協議を進めるも期日までに回答が得られず

 さらにF1側も、日本GPの開催を熱望していたという。そのため、同団体のステファノ・ドメニカリCEOを始め、さまざまな協力を得られたという。そのため、もっと早い段階で開催可否の判断をすべきところ、この8月中旬というタイミングまで引き延ばすことができたのだ。

 しかし、設定されていた期日までに、入国許可を確約する回答は寄せられなかった。しかも、その具体的な理由は説明されていないようだ。F1日本GPの所管官庁はスポーツ庁であるものの、ビザ発給は外務省、防疫体制を判断するのは厚生労働省、入国の審査は法務省とが行うことになっており、そのどこで判断が遅れたのかは明言されていない。

「具体的な理由はわかりません。しかし期限となる日程までに、回答が得られなかったということです」

 そう田中社長は説明する。

東京オリ・パラでは特例が認められたがF1には適用されず

 前述の東京オリンピック・パラリンピックに出場する選手、関係者には、数万人分の入国許可が特例で出されたという。しかしF1にはこれが許可されなかったということについても、田中社長は「残念です」と語っている。

「競技ごとに特性や条件が違うとは思いますが、一般的にも、個人的にも、残念ですよね。F1も世界的なスポーツですから、実際に観たいですよね。(所管官庁である)スポーツ庁にも、F1の重要さは理解していただいていたと思います。しかし約1500人という数は、国際行事であるオリンピックを除けば、一番多かった。なので、慎重にならざるを得なかったんだと思います」

 ヨーロッパを中心に、今年もこれまでF1が開催されてきた。なかには、ほぼ満員の観客を迎えて開催されたグランプリもある。また日本でも、オリンピック以外にも、サッカーや野球の試合が開催されており、選手のなかには特例での入国が認められた外国人もいる。しかし今の日本では、F1の開催は難しかった。

「モータースポーツの公益性、文化という意味での成熟度は、ヨーロッパとは違います。ここは、皆さんと共に成長させていかなければいけないと痛感しています」と、田中社長はそう想いを口にした。

「公益性という観点では、自動車産業は日本の基幹産業ですから、そこを訴えてきました。そういう意味ではF1を日本でやる意味を理解していただけたと思います」

 残念ながら今年の開催は実現できなかった日本GPだが、2024年まで開催契約が延長されている。

「この2年間、鈴鹿でF1を開催できなかった分、来年以降の同グランプリをより充実させる」と、田中社長は語った。

鈴鹿サーキット創立60周年を祝う「2021 F1日本GP」開催を願う!

「来年以降の3年間、F1日本GPの開催を継続することが決まっています。2022年は鈴鹿サーキットとしては創立60周年を迎えます。さらに楽しんでいただけるように、そしてこれまでの御礼も兼ねて、特別なグランプリを作っていきたいと思います」と田中社長。

 今年はホンダのF1最終年、しかもチャンピオン争いを繰り広げている真っ只中だ。さらに角田裕毅選手もF1ドライバーになって初めての日本GPになるはずだった……。彼にとってはレーシングスクール時代に、かなりの周回数をこなしたサーキットである。ホンダ、そして角田選手の活躍を見たかったという想いは誰もが同じだろう。

 鈴鹿サーキットも、もちろん開催を実現するために最大限の努力をしてくれた。F1も、それ以外の各方面からも、さまざまなサポートがあった。しかし時世柄、どうしても乗り越えられない壁があったということなのだろう。

 今は来年の日本GPが無事に開催され、そして例年以上に素晴らしいグランプリになることを願うしかない。

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