ヨーロッパ屈指の難関ターマック「イープル・ラリー」
世界ラリー選手権の第8戦は8月の半ばにベルギーのイープルで行われた。トヨタはカッレ・ロバンペラのヤリスWRCが3位、勝田貴元はコースオフリタイア。宿敵ヒュンダイ i20クーペ WRCがヌービル、ブリーンでの1-2フィニッシュとなった。トヨタは依然シリーズをリードだが、終盤に向けての展開にさらなる興味が湧いてきた。
伝統あるイープル・ラリーが初のWRCとして開催されたわけだが、その昔、ヨーロッパ選手権の最上級イベントとして評価されていたころの1994年に、三菱のランサーエボリューションで出たことがある。当時のよもやま話だがお届けしよう。
「闇のプラクティス」があった古き良きイープル
ほとんどのステージは日本でいえば農道。高低差が少ない平らな地形のため、長い直線と交差点のコーナーが多い。ただ日本と違うのはスピードだ。狭い農道で200km/h近いスピードが出る。
そしてコーナーはほとんどがインカット!
だから行くまで泥がどれぐらい出ているかわからないという怖さがある。ヨーロッパの舗装ラリーで一番難しく、怖かった印象だ。
本番のイープル・ラリーも華やかで面白かったのだが、一番の見どころは夜中の闇プラクティスだった!
ラリーコースのペースノートをつくるために認められている走行の「レッキ」ではなく、ステージを丸々使った本番車による全開プラクティスなのだった。スタート地点もフィニッシュ地点も本番通りの位置に置かれている。どうも闇プラクティスを仕切る闇オフィシャルがいるようだ(笑)。
ギャラリーも驚くほどたくさん集まる。もうちゃんとした? イベントの体を成してる、のだった。
しかしこれだけ派手でにぎやかになると、警察も黙っていない。ときどき取り締まりが入り、大追跡劇が始まる。
警察もただ追うだけではラリーマシンに逃げられるので、脇道を固めて一網打尽にしようとする。しかし闇のオフィシャル? がそこかしこにいて無線で警察の動きを知らせてくるから、みんな隙をついてブロックされていないところから逃げてしまう。
右往左往するパトカーの隙間をついて逃げて行くラリーカーも、最高だった! WRCに昇格するぐらいだから今はもうこんな夜のエンターテインメントもないんだろうね~。
サファリ・ラリーには「同時スタート」もあった
さて問わず語りのサファリ•ラリーはTC(タイムコントロール)制の続き。
サファリでは競技区間でのそれぞれのラリーカーのスタート間隔は2分。しかしステージの距離が長いから追いつくことが多々ある。
これには以前、タイムコントロールにある時計がいい加減だからとても秒単位で計測できないという事情もあったようなのだが、その分計時の伝統が延々と続いてきたのだ。
すると何が起こるか? といえば、次の競技区間のスタートが2台同時になってしまうのだ。
しかし次の問題が出てきた。ときに3000kmも走ったとしても同点でゴールする場合があることだ。
そこで主催者は、その順位をわかりやすくするために秒計時のSS(スペシャルステージ)を組み込んだのだった。それもよりによってモンバサの街はずれの広い駐車場でのジムカーナ!
いちおう市街地のギャラリーステージのつもりのようだがサファリでジムカーナステージとはね~。
執筆/三好秀昌
ラリードライバー、フォトグラファー。1990-1994年まで篠塚建次郎選手をドライバーとする三菱ラリーアートのチームマネージャーとしてサファリ・ラリーにも関わっている。自らもスバル・インプレッサのドライバーとして1995、1996(WRC)、1999(WRC)年参戦。1995〜96年2年連続サファリ・ラリーでグループN優勝。2007〜08年、アフリカ選手権サファリ・ラリーに三菱ランサーエボリューションのドライバーとして参戦。2008年FIAアフリカ・ラリーチャンピオン獲得。5回のサファリ・ラリーでは完走率100%。親しみあるショットの動物写真家でもある。