恐るべきポルシェ! ル・マンでも通算19勝を誇る「耐久王」
車両規定の見直しが図られ、今年からHVプロトに代わってハイパーカーをトップカテゴリーに位置付けたACOとFIAだが、今のところメーカー規模で本格的に取り組んでいるのはトヨタ1社のみの状態である。しかし、来2022年シーズン、あるいはル・マンが100周年を迎える2023年シーズンに向け、参戦計画を公表しているメーカーも少なくない。こうしたなかでも、ル・マン史最多の通算19勝、ル・マン史最長の7連覇を樹立したポルシェは、やはりひときわ注目を集める存在と言ってよいだろう。
スポーツカーブランドの雄たるポルシェは常に先端技術で勝つ
現状ポルシェは、今後の主流は完全EV化、そして現在は官能的な内燃機関を使うGTカー(LM-GTE Pro)があり、現在と未来をつなぐ存在として複合動力のハイパーカー(ハイブリッド方式)が中期的にあると位置付けている。なにより、創業以来スポーツカーレースに参戦を続け、規定が変更されるたびに新たな技術をもって臨み、結果としてつねに成功を収めてきたメーカーとしての実績は、別格と言ってよいかもしれない。
創業から4年目となる1951年にポルシェ356でル・マンに初参戦。特筆すべきは、初挑戦ながら総合20位で完走、クラス優勝(751〜1100cc)を勝ち取っていたことだ。
そのポルシェ、新たな時代を迎えて抜本的な技術革新を試みた。1964年にリリースした911シリーズである。901型水平対向6気筒エンジンを新たに開発。このエンジンを基本にレースプロジェクトも進展した。
1966年、純レーシングカーであるグループ4レーシングスポーツの906を開発。活動範囲は2Lクラスと限定的だったが、高性能、高信頼性、扱いやすさを備えていたことから耐久レースで好成績を挙げ、しばしば格上の大排気量車に先着したことで、ジャイアントキラーの異名をもって周囲から恐れられる存在に成長。そして、続く910への発展が、この印象をよりいっそう強めていた。
一方、北米市場で911シリーズが大成功し、ポルシェ社の規模は一気に拡充。これに合わせてレースプロジェクトも2Lクラスからの脱却を図り、2.2Lの907、さらに水平対向8気筒の3Lグループ6プロト908、そして4.5L(のちに5L)水平対向12気筒のグループ4スポーツ917へと、短時間のうちに急テンポで発展した。そして、1970年のル・マンで念願の初優勝、続く1971年のル・マンで2連覇を達成する成功を見せた。
北米レースでターボ技術を磨き上げ
結果的に、スポーツカーレースでの行き場を失うことになったポルシェだが、当時、ポルシェの大きな市場だった北米大陸のレースに着目。排気量無制限、オープン2シーターのグループ7カーを使うCAN-AMシリーズへの本格参入を決定した。それまでも917PA(ポルシェ/アウディ=スパイダー)を開発し、現地ディーラーの支援で参戦活動を続けていた。だが、ヨーロッパでは大排気量の5リッターエンジンも、最大級で8.4LアメリカンV8を搭載するマシンが常態化していたCAN-AMラウンドでは、いささか小排気量、非力な存在だった。
ポルシェはこの排気量ハンディを補う手段として、ターボチャージャーの実用化を試みた。レーシングカーのターボチャージャーは、スロットル開度が定常的なオーバルトラックを走るインディフォーミュラではすでに採用されていたが、CAN-AMシリーズが使う一般的なロードサーキットでは、過給のタイムラグが大きく、実用化に際して解決すべき問題が山積していた。
ポルシェは、CAN-AMシリーズで得たターボテクノロジーを市販車に応用。911ターボ(930)というかたちで具現化した。
これをベースにグループ4の934、さらにこれを発展させたグループ5の935を企画。そしてエンジンテクノロジーを継承したグループ6プロトの936を作り上げ、1976年、1977年、1979年のル・マンを制覇。
省燃費での性能争いだったグループCでも7連覇
そして、世界選手権としては初の性能規制が加えられたグループC規定が1982年から始まった。いま考えても非常に合理的な性能規制で、エンジン排気量や方式はいっさい規制せず、使用燃料量だけを制限したのである。要するに、どれほど高出力、大トルクのエンジンを開発しても構わないが、1レースで使える燃料量をレース規模に応じて制限したのである。このことは高効率エンジンの開発に直結し、より少ない燃料で、より大きな出力を発生するエンジンが勝利への絶対条件となっていた。
1993年、グループC規定が消滅。代わって高性能市販スポーツカーに焦点を当てたGTカー規定が導入された。
ハイブリッド一騎打ちでもまずはトヨタを打ち負かし
一方、ル・マンのトップカテゴリーは、アウディの登場によってFSI(直噴システム)、ディーゼル機関へと新たなパワープラントの時代が続き、この間ポルシェは企業再建に努めていたが、SUVブームに合わせたカイエンがヒット。
経営が上向いたタイミングで、ル・マン/WECのハイブリッド(HV)規定(2012年)が導入された。HVテクノロジーは、世界的にトヨタが1歩リードするかたちだったが、ポルシェは2014年にHVプロトの919を開発。トヨタとの一騎打ちとなることで、どの程度の実力なのか注目されたが、登場してみればいきなりトヨタに迫るスピードを発揮。TMGを率いたトヨタ勢の総帥・木下美明氏をして「さすがポルシェ」と唸らせる内容だった。そしてル・マンでは2015年から2017年まで3連覇を達成。
アウディが、終始本格的なハイブリッドシステムを作り上げられなかったこととは対照的に、ポルシェはトヨタと同じ土俵でHVプロト対決を展開。はた目に見て、HVシステムの進化度はトヨタに1日の長があるようにも思えたが、耐久レースを戦う高性能と信頼性においては、ポルシェが長年培ってきたメーカーとしての底力が見事だった。なにより、本格的なハイブリッドシステムを短時間で作り上げたポルシェの技術力はすごかった。
次なる戦いはハイパーカーで欧米の両ラウンド
2023年から、ル・マン/WECシリーズとアメリカのIMSAシリーズの双方で参戦可能なLMDh(ル・マン・デイトナ・ハイパーカー)規定での参戦を公表したポルシェだが、過去の実績が示すよう、いったん登場してくるかぎりは中途半端な内容での参戦はあり得ないだろう。現在はLMH規定で主導権を握るトヨタのハイパーカーだが、LMDhのポルシェが登場した場合、いったいどういった展開になるのか、その時が楽しみである。