レーシングカーからエンジンの移植も考えられていた後継モデル
軽とコンパクトのミラージュを除けば、今では“乗用車”をラインアップしていない三菱ですが、かつてはフルサイズの4ドアセダンからスポーツカーまで、幅広いモデルをラインアップしていました。
そのなかで1970年代にフラッグシップを務めていたモデルがギャランGTO。そしてエンジン排気量を拡大したその発展モデルへのスタディとなったのが、1972年の東京モーターショーに参考出品された三菱ギャラン GTO R73-Xでした。
ギャランの前身のコルトは三菱初の4ドアセダンだった
コルト600で1960年に小型乗用車市場に乗り出した三菱自動車(当時はまだ前身の新三菱重工業)は、1963年にはより上級モデルのコルト1000をリリース。これは三菱にとって初の4ドアセダンでした。その後コルト1000は、1100、1200、1500と排気量を拡大しながら進化を続けていきました。
ギャランの最上位のグレードMRにはツインカム・ヘッドを搭載
エンジンは新設計の1.3L/1.5L直4で、三菱としては初のOHCを採用していました。シャーシ的にもコルト1000シリーズがウイッシュボーンだったフロントサスペンションがマクファーソンストラットに変更されるなど、随分モダナイズされていました。当初は4ドアセダンの1車型でしたが半年後の1970年5月には2ドアハードトップが追加設定されています。
このコルトギャランをベースに登場したモデルがギャランGTOでした。1969年の東京モーターショーにギャランGTX-1の名で参考出品されていたコンセプトモデルをブラッシュアップした2ドアのハードトップクーペで、すべて1.6Lの直4エンジンを搭載していました。
三菱の“中興の祖”となったコルトギャラン
ちなみに、この1.6L直4エンジンは、MIグレードに搭載されたシングルカム/SUシングルキャブレター版も、MIIグレードのシングルカム/SUツインキャブレター版も、MR用のツインカム/ソレックス・ツインキャブ版も、全て4G32と呼ばれていました。
こうして三菱の“中興の祖”となったコルトギャランでしたが、国内経済が高度成長を続けるなか、ユーザーの上級志向に応えるように1971年には1.3LのAIが1.4Lの14Lに、1.5LのAIIが1.6Lの16Lに移行します。
さらに1973年にはハードトップのGSが1.6Lから1.7Lへと排気量を拡大していきます。そして1973年6月には2代目となるギャランが登場することになるのですが、こちらはエンジンのラインアップが初代の1.4L/1.6L/1.7Lから1.6L/1.85L/2Lへと排気量が拡大されていました。こうしたバックグラウンドの事情もあり、GTOにも排気量拡大に向け幾つかのアプローチがトライされることになりました。
キャッチコピーは「Hip up coupe(ヒップ・アップ・クーペ)」
1972年の東京モーターショーに参考出品(三菱では“ショーモデル”の位置づけでした)された三菱ギャランGTO R73-Xは、中でも有力な一案でした。
1970年に登場したギャランGTOは、そもそもウェッジシェイプを効かせたコルトギャランのファミリーの一員でしたが、こちらも全体的にウェッジシェイプを効かせた上で、“コーダトロンカ”と呼ばれるテールエンドを少し蹴上げた格好のリヤビューが大きな特徴となっていました。
それがスタイル上でのひとつのアピールポイントにもなっていて、キャッチコピーは『Hip up coupe(ヒップ・アップ・クーペ)』と表現されていました。GTO R73-Xは、そのGTOのボディをベースにノーズを少し延長してリヤにスポイラーを追加、さらにボディ両サイドについても前後にオーバーフェンダーを装着するなど迫力を増す出で立ちとなっていました。
またフロントビューではボンネット上、左側にエアスクープが設けられていることでも、迫力が増していました。結果的にボディの3サイズは全長が4185mm、全幅が1655mm、そして全高が1325mmとされ、ベースのGTOに比べて全長で60mm長く、全幅で75mm広く、そして全高で10mm高いものとなっていました。
ちなみにホイールベースは2420mmで共通でした。前後のオーバーハングに関しては正確なデータ(数値)が不詳ですが、外観から判断する限り、全長で伸びた分はほぼそのまま、フロントのオーバーハングの延長に使われているようです。このことからも、GTOの後継モデルでは2Lの直6エンジンを搭載するプランもあったと判断してよいでしょう。
運転席からワイヤーでコントロールできるスポイラーを追加
一方、ベースモデルとほぼ同じサイズ感となったリヤビューですが、トランクリッドの後端がヒップアップした形状もベースモデルと同様でした。しかし、じつはそのトランクリッドの後端上面にはスポイラーが追加されていて、跳び箱を飛び越えるときに使うロイター版(踏切板)のような形状で、角度がアジャスタブルとなっていて、しかも運転席からワイヤーでコントロールできるという、特徴的な仕掛けがありました。
またリヤのCピラー(クォーターパネル)には、ベースモデルでは、キャビンからの室内気を抜くエアアウトレットが設けられていましたが、GTO R73-Xでは3連のスクープ・ウインドウが設けられていました。これはデザイン上のアクセントというだけでなく、GTOでは一部で不満も聞かれた“後方左右の視界不足”に対する三菱からの回答だったのかもしれません。ダッシュボードを含めてインテリアはGTOのトップグレードに準ずるものでした。
GTO R73-XにはR69Bエンジンが搭載
最後に、搭載されたエンジンについても触れておきましょう。モーターショーに出展されていたGTO R73-Xには、新たに開発された2L直4ツインカム16バルブのR69Bエンジンが搭載されていました。これは1970年代序盤の日本グランプリにおいてF2000(事実上はF2)クラスに参戦していた三菱の、主戦マシンに搭載されていた純レーシングエンジンのR39Bを市販モデル用にチューンし直したものですが、ここに至るまでにも(GTOの後継モデルに向けて)さまざまなエンジンが候補に挙がったと伝えられています。
曰く1972年に登場した1.85L~2.6Lをカバーする直4OHCで“アストロン”の愛称を持った4G5型が候補に挙がり、また1970年に登場していた2Lの直6OHCで“サターン6”の愛称を持った6G3型も候補に挙がったとも伝えられています。
個人的にはR69Bを搭載したGTOをドライブしてみたかったです。ゴールドのカムカバーとソレックスのツインチョークタイプを2連装したエンジンは見ているだけでも満足できそうだった気もしますが、現実的には排気ガス規制の適合も含めてコスト的に折り合わないであろうことは明白なので、それも仕方なかったのでしょう。
ちなみに、GTO(とギャランの2ドアハードトップ)の後継に位置づけられて1876年に登場したギャランΛは、サイレントシャフト付きの“アストロン”を搭載していて、その辺りにもGTO R73-Xの存在意義が感じられます。