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隠れた名ミニバン「ホンダ・エリシオン」! 強敵「アルファード」&「エルグランド」を凌駕していたポイントは?

ミニバン王国のホンダから登場したエリシオンの魅力とは

 ホンダの主要ミニバン、オデッセイの生産終了が伝えられているが、かつてのホンダはまさにミニバン王国だった。そのホンダのミニバンラインアップのなかで、国内最上位モデルに位置づけられていたのが、ラグレイトの実質的な後継車で、2004年から2013年まで製造されたエリシオンである。 堂々としつつ、スマートな佇まいを見せた「大海原を疾走するクルーザー」をモチーフにしたボディサイズは、全長4845mm×全幅1830mm×全高1790mm(グレード、駆動方式により多少の違いあり)。ホイールベースも2900mmとなり、当時の国産LLクラスミニバンとして低床・低重心パッケージを採用し、ライバルのアルファード(初代)がリヤトーションビームサスペンションだったのに対して、前後ダブルウィッシュボーンサスペンションを奢るなど、ホンダらしい走りへのこだわりが満載のミニバンだったのである。

 ちなみにトーションビームサスペンションはそのシンプルな構造から、リヤまわりに余裕ができ、ラゲッジスペースの拡大にはメリットがあるものの、乗り心地と操縦安定性の両立が難しい形式でもある。一方、マルチリンクなダブルウィッシュボーンサスペンションは読んで字のごとく多くのリンクで構成され、それぞれにゴムのブッシュを持つため、乗り心地と操縦安定性の両立がしやすい形式となる。

当時の取材ノートを引っ張り出し徹底比較

 さて、今から17年も前にデビューしたエリシオンだが、当時のライバル関係はどうだったのか。記憶だけで思い出せるわけもないから、筆者の試乗リポートを記した古いノートを引っ張り出し、ホンダ・エリシオン/トヨタ・アルファード(10系)、日産エルグランド(E51)との比較試乗メモを紐解くことにした。

 まず、エリシオンのパワーユニットだが、デビュー当初はオデッセイにも積まれていたK24A型2.4L直4、およびJ30A型3L V6(ハイオク仕様)の2本立て。2006年12月のマイナーチェンジでは、当時も人気絶大だったアルファードの対抗馬として最上級のプレステージグレードを追加。エンジンはJA35A型3.5L V6を搭載し、国産ミニバン初の300psを達成している。

Mクラスミニバンとは別格の居住性とゆとりある走りを披露

 2007年当時のエリシオンプレステージの試乗メモによれば、ステップワゴンのようなMクラスミニバンに対して、ミニバンにとってもっとも重要な居住性の違いが大きい。全席の空間のゆとり、ゴージャスな雰囲気、くつろぎ感、装備の充実度、シートサイズの大きさに加え、とくにロングホイールベースを生かした3列目シートの膝回りスペースは圧倒的……とある。

 実際に往復各500kmの試乗を行ったのだが、7~8人乗りとはいえ2-2-2名の6名乗車なら快適至極。エンジンの余裕、ソファ感覚の大型シートの掛け心地、上級サルーン並みの乗り心地と静粛性、ボックス型ミニバンならではの見晴らし視界に満足しつつ、運転席から後席へと移動してみる。リヤモニターでビデオやナビ画面を見ながら、片道500kmの移動はあっと言う間の出来事だった。 はっきり言って、5ナンバーボックス型ミニバンはもちろん、どんな高級なサルーンであっても、ここまでの後席快適感は味わえない……とリポートしている。

プレミアムミニバンだけに見た目の威厳も大切

 このクラスのプレミアムミニバンでは、エクステリアの印象も重要だ。現行型のアルファードが大ブレークしたのも、マイナーチェンジで顔つきを大きく変え、より迫力あるものにしたからだ。では、2007年当時の印象はどうだったのか。

 もっとも派手で迫力があり、若々しく感じられるのが、大型ビレット風グリル、およびエアロパーツで武装したエルグランドだ。一方、クラウン同等の、冠婚葬祭のシーンでも違和感なきフォーマル感を備えていたのはアルファードだろう。

 豪華なクルーザーをイメージしたというエリシオンは、プレステージではアルファードを意識した大型グリルが奢られるものの、個人的には標準車の顔つきのほうがホンダらしくスポーティで、より洗練度が高く、プレミアム度が強いと感じるのだが……ということになる。

居住性を左右するインテリアの快適性はどうか?

 3台の豪華極まるインテリアはどうか。アルファード(試乗車はハイブリッド)のメーターはハイブリッド専用の1眼タイプだが、デザイン、色使いなどちょっと子どもっぽい印象。とはいえハイブリッド専用の大型センターコンソール、カーペットの豪華さもあって、プレミアム度はなかなか高い。

 エルグランドはインパネのモダンなデザインが特徴的で、メーターからナビに続く部分はリビングの液晶テレビを中心としたAVセンターを彷彿させる。ただ、木目調パネルはいかんせんプラスチッキーで安っぽく、カーペットもアルファードのものとは大違い。ごく普通である。

 対してエリシオンは、先進感のあるインパネデザインと大型センターコンソールの存在、質感の高い本木目を感じさせる木目調パネルが覆う面積の大きさによって、ゴージャス感では最上。シートサイズもじつはもっともゆとりがある。

 乗員にとって特等席となる2列目シートは、アルファードが膝まわり空間のゆとり、長時間の着座での快適感に大きく影響するシートクッションの厚み、長さでリード。収納式オットマン、テーブル、LED間接照明、スライドドア部分のステップにまで置かれた豪華なカーペット、そしてハイブリッドならではのクラス唯一のAC100V/1500Wコンセントの装備など、装備面のプレミアム度は圧巻だ。

 エルグランド(XLグレード)はキャプテン/ベンチ変幻自在かつテーブルにもなるマルチセンターシートが特徴的。オットマン&フットレスト、スマートに収納されるオーディオ&エアコン用のふたつのリモコンなどの装備も、ブラックレザー張りのシートとともにプレミアム度を盛り上げる。

 ただし、1列目席同様にカーペットに高級感がないのと、スライドドアの窓がチルトのみで昇降しないのが難点。窓の開かない飛行機や新幹線気分で乗っているぶんには、モダンなシートデザインもあって、プレミアムな気分に浸れるかも知れない。

 そしてエリシオンは、キャプテンシートのゆったりしたサイズ、1列目シートの大型センターコンソールから出てくる引き出し式大型ボックス、1列目シート背後のアシストグリップが目玉だが、シートのデザイン、そのスライド量ともにプレミアム度に欠ける印象。フットレスト、オットマンの用意もない。

3列目シートにも良好な居住性が求められるLLクラスミニバン

 3列目席はアルファードの雰囲気がもっともゴージャス。シートは5:5分割のソファタイプ。膝まわり空間はクラス最大で(エリシオンの倍はある)、左右のポケットや電動カーテンがあったりと、3列目席にして新幹線のグリーン車並みの居心地が得られる。エルグランドは空間こそモダンな雰囲気でゆったりしているものの、フロアのシートレールの見え方もいまひとつ。

 エリシオンは唯一、3人掛けにこだわった6:4分割シートながら(ライバルは5:5分割の2席独立)、ベンチシート風に見えてしまい、膝まわり空間はクラス最小。とはいえ、木目調パネルの高級感、ヘッドフォンジャックが3人分あるなど、最上級ミニバンとしての演出はなかなかである。 ここまでの項目では、今も昔もアルファードの強さが際立っているが、当時のライバル関係でエリシオンが圧倒していたのが走りだった。

動力性能と操縦安定性、上質感のある走りはエイリシオンが断然格上

 2007年に行ったエリシオンvsLLクラスミニバンの試乗レポートメモに記されたライバル比較評価は以下の通りだ。

 このクラスのミニバンは、走り出してからのプレミアム度にもこだわりたい。そこで俄然、際立つのがエリシオン。エリシオンプレステージのミニバン最強の300psというスペックはともかく、エンジンを問わないトルクフルかつジェントルで上質な加速感、しっとり重厚でロングドライブにも最適なしっかり感ある乗り心地、そしてエンジンをひとたび回したときのスムースで圧倒的な加速の迫力はまさにプレミアムだ。

 パワステの操舵感、ダブルウィッシュボーンサスペンションがもたらす低重心感覚溢れる操縦性、姿勢変化を抑えたフットワークなど、ドライバーが感じるプレミアム度ではベストと言っていい。

 エルグランドも3.5L V6エンジンを搭載するが、スペックは240psと平凡。しかも運転感覚、乗り心地ともにアメリカンともいうべき大味なテイストだ。段差、荒れた路面で足まわりがバタつくあたりも、走りのプレミアム度という点ではマイナス要因。高速道路などのフラット路を一直線に豪快にクルーズするのに向いているのがエルグランドではないか。

 アルファードはクラス唯一のハイブリッドに試乗した。2.4L直4エンジンベースの旧世代型ハイブリッドということで、モーター走行時の電気自動車的に滑らかな走行感覚、静かさ、燃費の良さこそ褒められるものの、絶対的動力性能ではここでの3.5L V6搭載のライバルに敵うはずもなく、日常的に必要にして十分と表現できる動力性能にとどまる。もし、速さもプレミアム度のひとつ……と考えるなら、アルファードの場合、3L V6のガソリン車を薦める。

 一方、操縦安定性では、低床パッケージ、前後ダブルウィッシュボーンサスペンションを備えたエリシオンが圧倒する。プレステージグレードの試乗メモを読み返すと、以下のようなリポートになる。

 エリシオン・ブレステージの走りは、少なくとも街中をゆったり流すシーンでは300psの威力を感じにくい。トルクの豊かさこそ実感できても、爆発的に速い……という印象は薄い。DBW(ドライブ・バイ・ワイヤ)の制御もあって、あくまでもジェントルかつウルトラスムースな加速感が持ち味だ。乗り心地は18インチタイヤと専用サスペンションがもたらす、標準車よりやや硬めのタッチとはいえ、じつに滑らかかつフラット。プレステージの名に相応しい、期待を裏切らない乗り味だ。

 とはいえ、ジェントルな印象はそこまで。ひとたびアクセルを深く踏み込めば、最高出力300ps/最大トルク36.0kg-mの迫力、怒濤の加速力を否が応にも実感させられることになる。まさにスポーツカーさながらのシートバックに背中がめり込むような加速感とGがもたらされるのである。

操縦安定性もライバルを圧倒! 中古車を狙うのも悪くない

 ゆとりがあり過ぎる3.5L V6のエンジンパフォーマンスだけじゃなく、エリシオンは操縦安定性も素晴らしい。パワステの操作性はウルトラスムースで、切れば切っただけ素直に反応する乗用車感覚のステアリングフィールが好印象。ライバルに比べて圧倒的と言える低重心感覚は、アルファードやエルグランドには望めないエリシオンならではの魅力と断言できる。

 そしてエンジンの低振動性能、圧倒的な直進性の良さ、さらには山道でさえ活発に駆け回ることができる低重心感覚溢れるフットワークは感動ものである。

 もちろん、エリシオンは2.4L直4モデルでもクラスベストな上級感ある走りが味わえる。何しろエンジンのスムースさは少し前の3L V6並み。高回転まで回すことが苦にならず、ゆえにスペック以上の動力性能を引き出せる。しかも乗り心地は重厚かつスムースそのもの。プレステージグレードの3.5Lモデルの追加で影が薄くなってしまった3Lモデルは、重量級ボディを軽々としかし上質感たっぷりに走らせることができる実力の持ち主だった。

 静粛性に関してはさすがに4気筒モデルの比ではない。個人的な印象としては、強面のプレステージグレードより、スタイリング的に標準グレードのほうが、エリシオンらしい上品さがあっていいと思えるのだが。

 今では中古車として100万円以下で手に入るエリシオン。プレステージグレードでも100万円台前半だから、ちょい古めながら、大海原を疾走するクルーザーをモチーフにした、豪華な室内空間、前後ダブルウィッシュボーンサスペンションを奢った、このクラスとして走りに特化したホンダ最上級ミニバンの世界を味わうのもいいだろう。

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