高級クーペやカブリオレのクルマ造りの本質とは
元来、メルセデス・ベンツの高級クーペやカブリオレのクルマ造りの本質は、1930年代の黄金時代に花を添えた500Kや540Kだ(直8気筒、OHV、5Lと5.4L、ルーツのスーパーチャージャー付きエンジンを搭載し160hpと180hpを発揮)。そのクルマ造りには他社との差別化にあった。
当時、世界の高級車メーカーはエンジンやシャーシまでを自社で造り、ボディ・内装はオーナーのお好みに合わせて専門の「コーチビルダー」に再発注して架装させていた。しかし、メルセデス・ベンツは伝統的にボディのデザインから製造に至るまで一貫して自社ジンデルフィンゲン工場で造っていた。これこそがメーカーの「責任と自信」で、メルセデス・ベンツのクルマ造りの執念だ。
当時、最高級の540Kといえばダイナミックなフェンダーラインや流麗なテールラインが特徴で、厚い鉄板を手でなだめながら形造る手法は神業と言われた。加えて、特殊装備品は特別誂え品ばかりだ。内装やダッシュボードには、匠自らの手作業による「ウッドフェシア」が施してあり、シートは重厚な造りでドイツ特有の豊満な「ベロア生地」を存分に使用し、特別に織られた分厚い絨毯で豪華仕様! 世界中の富豪の要望に応えた正にメルセデス・ベンツビンテージの芸術品と言える。
事実、伝統的に時の上流階級に相応しいスタイル、構造、性能、装備品をつぎ込んで造られた。当時、高級なクーペやカブリオレのオーナーは生活にも余裕があり、セダンを含め何種類ものクルマをガレージ一同に並べ、用途に応じ使い分けをしていた。これこそ、オーナーの夢である。
また、使いこなすには乗る人もそれなりの「知識」、「マナー」、「装い」など、それ相当の覚悟が必要と言われてきた。
日本では「ベンツ」と呼ばれた昔、高級イメージが強かったが、今日ではメルセデスと呼ばれ、ファミリーカーを揃えた現モデルラインアップは一段と豊富になった。そこには昔のような格差はなく、多彩なファッションを着こなすライフスタイルに対応したモデルを導入している。
現在では言葉や動作などすべて自分の好みや学習をサポートする革新のインフォメーションシステムが主流となり、最適な移動を提供する「MaaS」でより豊かな生活が始まっている。その背景には、メルセデス・ベンツが2016年10月に発表したコンセプトであるインターネットとつなぐコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)がある(CASE)。こうした時代こそ脱炭素の流れを踏まえ、メルセデス・ベンツは最高の革新技術を融合させ安全でグローバルなモビリティサービスに積極的に取り組んでいるのだ。