この記事をまとめると
■電動車走行時の擬音装置の装備は国際基準で義務化されている
■日産は初代リーフのときに米視覚障がい者団体と共同で擬音を開発
■各社同じ音に統一することがユーザーのためになるはず
モーター駆動できるクルマへの義務化はされているが
電気自動車(EV)はもとより、モーター走行するハイブリッド車(HV)を含め、発進から低速走行までの間は、クルマが走ることを知らせる擬音を使った音出しを車外へ行っている。これを、車両接近通報装置と呼ぶ。
市販EVの先駆者日産が視覚障がい者とともに擬音を開発
2010年に日産が初代リーフを発売するときから行政指導により自主導入が始まり、現在では法規で装備が定められている。またこれは、安全で環境性能の高いクルマの普及を目指す自動車基準調和フォーラム(WP29)でも定められており、加盟する各国や地域でも同様の措置が取られている。いわば、国際的な措置だ。なので、輸入車も車載する。
ところで、その車両接近通報装置の音が、自動車メーカーによって異なることが平気で行われている。
初代リーフ発売に際し、車両接近通報装置の話が持ち上がった背景に、EVはエンジン音がしないので、接近した際に歩行者などが気付きにくいとの懸念から生じたことだが、それ以上に、目の不自由な人にとって不安だとの声が強く、採用が促され、法規制に至っている。
しかし現実には、エンジン音が低いクルマはいくらでもあり、商店街を歩いていて後ろにタクシーが迫っていることに気付かなかった経験を私は持つ。EVかエンジン車かを問わず、ことに低速では静かになっている現実がある。エンジン車は音があるので気付きやすいというのは、思い込みに過ぎない。EVなどで音出しを義務付けられる低速領域では、モーターかエンジンかの差はないに等しい。
次に、EV導入に際し、日産は擬音の研究を進めるなかで、ことに要請の強かった米国の視覚障がい者団体の協力を得て、リーフと同等の車格のエンジン車も使いながら、目の不自由な人が気付きやすい擬音を作った。試験の結果、その音は、エンジン車より先に接近に気付いたということだ。
そこまでの開発過程を経て初代リーフに採用された音を、ほかの自動車メーカーは採用することなく、自社独自の音にこだわっている。ある自動車メーカーは、導入当初と別の音にいまは切り替えているし、別の自動車メーカーは自社特有の音色だと自慢するプレスリリースを発行する始末だ。
擬音によって、何かがそこにあることはわかっても、目の不自由な人にはそれを目で確かめる手段がない。モーター走行可能なクルマがさまざまな音を出したら、どれがクルマの接近を知らせる音か区別がつかないはずだ。各自動車メーカーは、車両接近通報装置本来の目的を理解することなく、ほかのメーカーとの差別化という商品性の視点でさまざまな音を作り、自己陶酔している。
今回、東京パラリンピックで選手村内を走るEVのe-Palletが、視覚障害を持つ日本の柔道選手と接触した事故は、まさに車両接近通報装置の統一ができていないことも要因のひとつではないか。