軽スペシャリティの先駆け! 狭山工場の歴史が詰まったZ360を振り返る
1970年10月、後に「水中メガネ」の愛称で親しまれた初代ホンダZ(以下、Z360)が発売された。
このZ360は、Nシリーズの「NIII360」をベースにしたスペシャルティカーとして登場した。現在人気のSUVにもクーペスタイルが採用されているように、N360に設定されたクーペスタイルがZ360というわけだ。 N360は王道の軽自動車で、そのデザイン性に加えてより幅広い層に訴求しようとしたのがZ360であり、こうして振り返ると時代が変わってもユーザーの要求は変わらないのだろうと思ってしまう。
とにもかくにも、Z360は軽自動車スペシャリティカーの先駆けのモデルだった。
チャレンジ精神に溢れていたホンダのくるま作りを感じさせる1台
開発コンセプトは「人の欲求・好みに無限の姿があることに応えて、いつも創造的なくるまを世界に提示するーそれが、ホンダです」とある。
その精神は商品に表れていて、空力に優れた低いボンネットやガラス面積を広くとった視認性、視界を広げるリヤウインドウなどで表現されており、スタイリッシュなデザインと機能性を両立させようとしていたことがよくわかる。とくに愛称となった「水中メガネ」は、リヤウインドウをスタイリッシュに斜めにカットし、ガラスハッチ周囲を黒くて太い樹脂製フレームで囲った形状からきたもので、個性的なスタイリングで人気を博した。そしてこのデザインが現行型のN-ONEにも継承されているわけだ。 また、衝撃吸収機能を持たせたステアリング(ラック&ピニオン式)やクラス初のPCV付きの前輪ブレーキ、クラッシュパッドで覆われたインパネ、さらに高速ワイパーや電動ウオッシャーなどが備わっており、安全性にも十分に配慮。そしてタコメーターも標準装備だったのだ。
個性を主張する5グレード展開がホンダらしいラインアップ
Z360は軽の趣味性を持つ個性派モデルながら、安全面や機能性を重要視。このあたりもホンダの姿勢がよくわかる。
そしてエンジンは、強制空冷2気筒4サイクル354ccながら36psと31psの2種類をラインアップ。高出力版は最高出力36ps/9000rpm、最大トルク3.2kg-m/7000rpm、普及版は31ps/8500rpm、3.0kg-m/5500rpmを搭載して、スペシャルなコンセプトながら幅広いユーザー層に訴求した。 面白いのはグレードの構成で、発売当初は、最高出力31psの普及版といえる「ACT=行動派・活動派のくるま」と「PRO=未来派プロフェッショナルのくるま」であり、36ps仕様の「TS=スポーツ魂を満たす個性派のくるま」や「GT=余裕のある人々のグランドツーリングカー」、そして最上級グレードに「GS=テクニックを誇る健康的なタフガイのくるま」という構成で発売された(※GSのみ1971年1月発売)。 面白いのはトランスミッションで、GSには5速のドグミッションで、ほかは4速シンクロ仕様と細かく作り分けられていた。
ホンダは洗練されたスタイリングと走行性能でこれまで世界的に高い評価を得ているが、それは1970年に登場したZ360でも表されていた。 ちなみに時代を感じさせるエピソードとして価格を記すと、車両価格は「ACT=34万8000円」、「PRO=39万6000円」、「TS=38万6000円」、「GT=42万6000円」、「GS=46万3000円」(いずれも埼玉県狭山工場渡し現金価格)となっていた。当時は輸送費が加算され、主要都市では札幌1万7000円/仙台7000円/東京2000円/名古屋6000円/大阪9000円/福岡1万9000円であった。
■初代ホンダZ(前期型)主要諸元
〇全長×全幅×全高:2995mm×1295mm×1275mm
〇ホイールベース:2000mm
〇トレッド 前/後:1140mm/1150mm
〇車両重量:525kg
〇乗車定員:4名
〇最小回転半径:4.4m
〇室内長×室内幅×室内高:1490mm×1135mm×1045mm
〇エンジン:強制空冷2気筒4サイクル 2気筒直列横置き
〇総排気量:354cc
〇最高出力:36ps/9000rpm
〇最大トルク:3.2㎏-m/7000rpm
〇サスペンション 前/後:独立懸架/半楕円板ばね式
〇ブレーキ 前/後:LT(前PCV付き)/LT
〇タイヤサイズ :145SR10