軽自動車からF1マシンまでなくてはならない装備の代表格
自動車は、走行中にブレーキペダルを踏めば速度が落ち、車両を停止させることができる。自動車のブレーキはたくさんのパーツで構成されているが、そのなかでも重要な役割を果たしているうちのひとつがブレーキパッド。今回はあらためてブレーキパッドはどんな役割を果たしているのか、そして交換時期の目安、交換するときの費用などについて解説していく。
ブレーキパッドとは? 役割や重要性について
自動車にとってブレーキとは、走行中の動いている状態から、速度を落として車両を停止させる装置のこと。またはメカニズム全体を言い表す場合もあるだろう。運転手がブレーキペダルを踏めば、ペダルから油圧がブレーキキャリパーに伝達されることでブレーキパッドとディスクローターが擦り合わされ、クルマを減速し停止させようとする力が発生する。
そもそもブレーキの仕組みを物理の観点から説明すると、運動エネルギーを熱エネルギーに変えて、もとの運動エネルギーを小さくしていくことになるのだが、車軸が回転する力はブレーキローターとブレーキパッドの摩擦によって熱に変換され、車両を止める制動力が生まれるのだ。
すなわちブレーキパッドとは、「熱を発生させるもの」であり、一方のブレーキローターは「熱を蓄えるもの」ということになる。ディスクブレーキの場合は、ブレーキパッドと呼ばれるが、ドラムブレーキの場合は、ブレーキシューという。
摩擦によって制動力を発生させるブレーキパッド(ブレーキシュー)、ブレーキローターはともに、徐々にだが摩耗(摩擦によって消耗)する。そのため、定期的な交換が必要になってくる点も、教習所で教わるとおり知っておかねばならないこと。
ブレーキパッドの役割は、「熱を発生させるもの」ということになる。その重要性と言えば、ブレーキパッドに備わる摩擦材(摩材)によって、ドライバーが感じるブレーキの利き具合に大きな影響を与えることが挙げられる。
ブレーキパッドの摩擦材には、ノンアスベスト材、セミメタリック材、カーボンメタリック材、メタリック材などがある。どんな摩材を使うか、またどのように配合するかで利きの良いパッドになったり、ブレーキダストの少ないパッドになったり、ブレーキパッドの特性を変更(調整)できるようになっている。
例えば、サーキットで使うレース用の特別なブレーキパッドも存在し、普段の街中で使用するよりも、高い温度に耐えつつ、“鬼のように利く”といった特性にすることも可能である。
ブレーキパッド交換の目安 摩耗しすぎるとどうなる?
ブレーキパッドの役割や重要性からわかるとおり、ブレーキパッドはたとえ金属であっても必ず摩耗し、いずれ交換時期がやってくる。では、どんなタイミングでブレーキパッドを交換するべきか、目安となるポイントをいくつか紹介していこう。
ちなみに、ブレーキパッドの適正な交換時期を過ぎ、寿命をむかえ摩耗しすぎてしまうと、もちろんブレーキが利かなくなる。さらに、摩擦材部分がすべてなくなると裏板部分がブレーキローターと直接接触することになり、ブレーキローターを一気に傷つけることになってしまうのだ。交換する必要のないブレーキローターまで交換せねばならず、不要なコストがかかってしまうのは言うまでもない。最悪はキャリパーまで破損する可能性もなくはない。
いずれにしてもブレーキパッドの残量を「まだまだ大丈夫だろう」と甘く見ると、ある日突然にブレーキが利かなくなることもあり得る。止まらないクルマを運転することほど怖いものはない。ちゃんとブレーキが利くからこそ、アクセルが踏めるのだ。
目で見てパッドの残量で確認
ブレーキパッドの残量が5mmぐらいになると、そろそろ交換の準備(心の準備も含め)をしたほうがいい。ブレーキパッドは新品の状態で約10mmぐらいの厚みがあり、残量が3mm以下になると交換時期となる。残量が5mmというと新品時の半分。まだまだ残っていると思うかもしれないが、残量が少なくなればなるほど摩耗度合いは早くなる傾向にあるので注意が必要だ。
走行距離を目安にする
走行距離についてはケースバイケースにはなるが、一般的にブレーキパッドは走行距離1万kmで1mm摩耗するという目安がある。ブレーキパッドの残量が3mm以下で交換時期が来ることを考えると、走行距離を目安にする場合は「5万km」を交換時期にするのが良いだろう。
ブレーキフルードの量で確認
前回のブレーキパッド交換時にブレーキフルードも同時に交換して、そこから何もせずにいた場合、リザーバタンク内のブレーキフルードの量がロア(MIN)線ぐらいまで減っているとブレーキパッドも大きく減っている可能性が高い。ブレーキフルードの残量チェックもブレーキパッド交換の目安になるだろう。
ブレーキの鳴き音で確認
ブレーキパッドには、パッドウェアインジケーターという機能が備わっているものがある。残量が減り交換時期になると、「キーキー」と鳴いて教えてくれるもの。高級車ならインパネの警告ランプがついて知らせてくれるという、ありがたい機能もあったりする。
ブレーキパッドの交換費用と作業時間
次に、ブレーキパッドを交換する場合の費用や作業時間について見ていこう。交換工賃とパッドの本体価格に分けて考えると明確だ。ブレーキパッド交換作業を整備工場やショップに依頼する場合は、左右2カ所で6000円前後~。工賃設定が高いところで1カ所5000円程度のところもあるようだ。交換作業に要する時間は、30分~1時間ぐらいといったところ。
ただし、ブレーキパッド交換はエンジンやサスペンションなどと同じように、重要な部品の分解整備は、国の認証工場か指定工場でしか認められていないので注意が必要だ。自動車メーカーの看板が掲げられているような、カーディーラーなら間違いはないだろう。小規模ショップで認証工場か指定工場かを確認する場合は、工場付近やショールームの入り口に、それらの「標識」があるかないかを探すのが手だ。後述するが、自分のクルマのブレーキパッドを自分で交換するのはオッケー。
ブレーキパッドの本体価格は、たいてい、軽自動車でフロント左右1セット7000円ぐらいから、普通車で8000円ぐらいというのが相場。フルサイズミニバンや大型のSUVともなれば、1万5000円~といったところだ。ブレーキパッド本体の価格と工賃を合わせると、軽自動車で1万2000円ぐらい~、普通車で1万5000円ぐらいが標準。
ちなみに、たとえばスポーツカー向けにラインアップされている高性能なブレーキパッドであれば、2万円~3万円という高額なものもある。サーキットでのスポーツドライビングを前提にした摩擦材になっているので、高額だからと言って、ストリートでもすごく利くのか? というとそうではない。
ストリート、ワインディング、スポーツ、レース……と、それぞれに合ったブレーキパッドをチョイスする必要がある。ブレーキは熱と密接な関係にあるのは述べたとおりだが、使用用途別に適正温度が設定されている。ストリート用だと適正温度は0℃~、サーキット用になると200℃~というブレーキパッドもあり、冷えた状態では利かないのだ。その逆に、サーキット初心者だからと純正パッドで走るケースもよくない。腕の良し悪しと適正温度は違うハナシなのだ。
ブレーキパッド交換の費用を削減する方法
ブレーキパッドを交換したところで、見た目には何も変わるものではない。ドレスアップパーツであればある程度の投資も納得は行くが、その反面、ブレーキパッド交換はできる限りコストを安くしたいという気持ちはよく理解できる。ここではそんな、ブレーキパッド交換の費用を削減する方法を考えてみた。
ディーラーよりもカーショップで
一概には言えないが、ブレーキパッド交換にかかる工賃は、カーディーラーよりも自動車用品販売店のほうが、比較的安い傾向にはある。左右2カ所で6000円というケースと1カ所5000円では、4000円の差になる。
タイヤ&ホイール交換のついでにやってもらう
ブレーキパッドを交換する場合、タイヤ(&ホイール)を外す必要があるのだが、タイヤ&ホイール交換のついでにブレーキパッド交換までやってもらうと、別々にジャッキアップやタイヤ(&ホイール)の脱着工賃を支払う必要はないと思われる。
自分でDIY交換する
ブレーキ関連パーツは、自動車にとってもっとも重要な部品のひとつになるので、自信のない人にはオススメできない。だが作業工賃を浮かすために、自分で交換するという手段もある。ただし、1回のパッド交換のために、イチから必要な工具をそろえることを考えると、プロに作業を依頼したほうが安くて確実。
社外品のパッドにしてみる
いまやインターネットで世界中から情報を集められる時代。日本車だって世界中で走っている。そう考えれば、海外製の激安(?)ブレーキパッドが売られている可能性もある。ブレーキパッドはメーカーの純正品以外にも、いわゆる社外品もたくさん販売されていて、そのなかには純正よりもコストが抑えられているパッドも少なくはない。
ブレーキパッド交換をセルフで行う場合は……
ブレーキパッド交換は国の認証工場か指定工場でしか認められていないと述べたが、これは作業をプロに依頼する場合のことで、整備士ではなくても、自分のクルマのブレーキパッドを自分で交換するのはオッケー。法律上でもなんら、おとがめがない。
そこで、パッド交換を自分でチャレンジしたい方に向けて、必要な工具などを整理していこう。パッド交換自体は原理やコツさえわかれば難しいものではないが、タイヤ&ホイールを外すためには、まずジャッキやクロスレンチが必要になってくる。
以下に箇条書きで記してみたが、プロに頼んでも左右2カ所で6000円(片側3000円)でやってくれるなら、値段相応というか、むしろお得なのでは? と思ってしまう。どう思うかはアナタ次第ではあるものの、決してお高くはないという気がするのだが、いかがだろうか。
ブレーキパッド交換に必要な工具
・ジャッキやリジットラック(ウマ)
まずは、タイヤ&ホイールを外さねばならないので、車体をジャッキアップするジャッキが必要。さらにリジットラック(ウマ)に乗せると確実。
・クロスレンチ
タイヤ&ホイールを外したり装着するためのクロスレンチ。もとに戻したあとに外れてしまわぬようきちんと締め付けるトルクレンチも用意しておきたい。
・メガネレンチ(スパナ)
ブレーキパッドはブレーキキャリパーのなかにあるので、キャリパーを外す際に、メガネレンチやスバナが必要。
・ブレーキピストンツール
摩耗したパッドから新品に交換する際には、キャリパー内の飛び出たピストンを押し戻すためにブレーキツールが必要。C型クランプでも代用は可能。
・ブレーキクリーナー
ブレーキ周辺はブレーキダストにまみれているので、点検を兼ねてキレイにクリーニングするといい。
・スポイト
ピストンを押し戻す際、仮にブレーキフルードがリザーバタンクいっぱいの場合は、溢れ出るのであらかじめスポイトで適量を吸い取っておく。
ブレーキパッド交換をセルフで行う場合の手順
1)ジャッキアップ
2)タイヤ&ホイールをはずす
3)キャリパーを開ける(はずす)
4)古いパッドを引き抜く
5)キャリパーの飛び出たピストンを押し戻す
6)新しいパッドを入れる
7)キャリパーをもとに戻す
8)タイヤ&ホイールをもとに戻す
9)点検&確認
一連の作業は以上のような流れになる。鳴き防止のグリスをブレーキパッドに塗ったり、ブレーキ周辺をブレーキクリーナーで掃除するなどは、必要に応じて行うといい。パッド交換の際には、ブレーキローターの減り具合も見ておくべし。
交換作業が済んだら、走り出す前に、ブレーキペダルを踏んで正確に動作しているかを必ず確認すること。走り出す際も、すぐには性能が発揮されないので、徐々にスピードを上げていくような走行を心がけるといいだろう。
ブレーキパッドのほかにブレーキまわりで整備しておきたいところ
今回はブレーキパッドに照準を合わせて解説しているが、ブレーキのシステム全体に目をやると、ブレーキパッド以外にもたくさんのパーツで構成されている。
交換が必要なものや劣化しやすい箇所としては、ブレーキローター、ブレーキフルード、ブレーキホース、ブレーキキャリパーなどが挙げられる。ブレーキホース、ブレーキキャリパーが古くなって劣化すると、ブレーキフィーリングが悪化したり、ブレーキフルードが漏れたりする。走行距離が10万km以上というようなクルマは、オーバーホールしたほうがこの先も安心して長く乗ることができるだろう。
そしてブレーキフルードだが、これもブレーキのなかでは重要な役割を果たしている。ブレーキフルードはドライバーが踏んだブレーキペダルの圧力を、ブレーキホースのなかを通りキャリパーに伝達させるもの。特徴として水分を吸収しやすい性質を持っていて、ブレーキフルードが水分を吸収すると(劣化すると)茶色っぽい色に変わる。そのほか、吸収された水分が沸騰すると気泡が発生し、ペダルフィーリングにダイレクト感がなくなるなど、制動力が落ちる原因にもなる。
「ブレーキのエア抜き」という言葉を聞いたことがある人も多いと思うが、ブレーキフルードの交換作業を行うことと同じだ。エアが噛んだ古いフルードを抜いて、新しいフルードに入れ替えるとエアは抜ける。まれに、新しいフルードに交換する際にも空気が入ることもあるので、注意が必要である。
ブレーキフルードを交換する際は、部品代と作業工賃で5000円ぐらいが目安。一般的なユーザーであれば、車検ごとに新しいフルードに交換するのがオススメだ。
クルマとバイクのブレーキパッドの違い
クルマ同様にもちろんバイクのディスクブレーキにもブレーキパッドが使われている。運動エネルギーを熱エネルギーに変換するというメカニズムも同じだ。ただ、重量がクルマよりもバイクの方が圧倒的に軽いため、一般的にはブレーキの負担が少ない。パッドの摩材もクルマより摩擦係数が全体的に低い。
しかし、負担が少ないからと言って、クルマよりもバイクの方がブレーキの交換サイクルが長いというワケではない。逆に短く設定されていて、5000km~1万kmが目安とされている。
バイクはブレーキがむき出しになっているので、ブレーキパッドの残量はチェックしやすい。残量による確認では、5mmぐらいが交換時期、2mm以下はとても危険な状態。
実は車検NGの基準はなし! 安全のためにこまめな確認を!
最後に車検とブレーキパッドの関係だが、タイヤの溝のように残量によって、車検がNGになるという基準は、じつは設けられていない。車検がたとえOKでも、ブレーキの利きに関しては、ドライバーや同乗者の命にも関わってくるので、定期的な点検はお忘れなく。あらためて申し上げると、ブレーキパッド、ブレーキローター、ブレーキフルードなどは摩耗や劣化を伴うため、早めの交換が必要であることは決して忘れてはならない。