スピンするも無事に復帰しバトンを繋ぐ
それでも予選では、ほかのLMP2マシン2台を上まわる28番グリッドを獲得。決勝レースでは、直前の降雨でいったんウエットになった路面が乾いていくという微妙なシチュエーションのなか、マチュー選手がスタートドライバーを担当、この難しい路面コンディションのなかをミスなく走行する。このマチュー選手からバトンを受けた拓磨選手のタイミングでも天候が不安定になり、一度はスピンを喫したものの、マシンを壊すことなく、その後は安定した走行を重ねていく。予定スティントを終えると、同じく車いすドライバーのナイジェル選手にバトンを繋げた。
84号車は序盤に順位を落としていったものの、しかし、順調に走行を進め、順位を徐々に上げていくことに成功していく。チームでは、当初はマチュー選手が走行を多く負担するような作戦であったが、マチュー選手が139周、拓磨選手104周、ナイジェル選手91周を走行することとなった。最終スティントは拓磨選手がこの84号車のステアリングを握り、チェッカーフラッグを受け、総合32位でフィニッシュした。
チェッカードライバーの拓磨選手はウイニングラップを走り、無事にホームストレートにマシンを止めてスタッフの手を借りて車両から降りた際には、会場からは非常に大きな歓声と拍手が贈られた。
参戦後、青木選手が語る「ル・マン」の魅力とは
参戦から1カ月。青木選手に改めてそのル・マンを振り返ってもらった。
「今でも、気分爽快、です。そしてもう一度、あのサルト・サーキットを走りたいって思っています。やっぱり、ル・マンって特別だったなってしみじみ思いますし、そのサーキットをもっと完全な形で走りたいっていう気持ちが芽生えてきています」
「完全な形っていうのは、まずいつも通りのル・マン24時間レースでの開催ですね。25万人を超える観客の皆さんが見に来れて、市内での公開車検や撮影もスケジュールに入っていて、ということ。それ以外にわれわれの今回の参戦では、ACOの関係者やレーシングカービルダーのオレカのスタッフとも知り合えました。こういった方々に車いすユーザーへの理解をもっと深めてもらった形での参戦です。また、じつはマシンも今回の車両は完璧ではなかったです。オレカのスタッフも『次は手動装置をもっと良いものに仕上げられる』って言ってくれました。今回は手探りの部分が多かったというのは正直なところです」
「こういった環境すべてをもっと進化させていきたいですし、マシンという機械を使うモータースポーツだからこそ、健常者と障がい者の垣根を越えて一緒に楽しめる世界が実現できると思ってます。それをリアルにやっていけたらと思っています」
サルト・サーキットに戻るために、すでに徐々にではあるが活動を進めている青木拓磨選手。ふたたびあの場に立つ日が早く来ることを期待したい。