カスタムパーツの充実が日本車を後押し
元々は、アメリカでもカスタムのベースとなる日本車はスポーツカーが主流だったが、やはりインターネットの普及により、日本のほかのジャンルのカスタムも現地で話題となる。そのひとつがVIPカーだ。とくにヘラフラッシュでは、車種を問わず「車高が低いクルマがかっこいい」という文化が生まれる。 道路に凸凹などが多く荒れていて、車高が低いと走りにくいアメリカではそれまであまりなかった手法だ。そういった流れに乗ったこともあり、車高が低いことも大きな特徴であるVIPカーが、アメリカでも受け入れられていく。 現地でベースとなる車種は、例えばトヨタ車の場合、レクサスのクルマが多い。セルシオは当時、20型がLS400、30型がLS430として販売されたので、現地でも中古車が多く、ベース車として選ばれやすい。また、16型アリストもレクサスのGSとして販売されたので人気が高いクルマだ。日産車では、高級車チャンネルのインフィニティで販売されたQ45は日本でも売られ、VIPカーのベースとなっていたため共通項がある。ほかにも、LS460やSC430(日本の30型ソアラ)などがベース車となることが多い。
芸術文化に国境はない
いずれも、左ハンドル仕様とはいえ、日本車であるためVIP系のパーツが日本から手に入る。例えば、老舗ブランドの「ジャンクションプロデュース」が開発し日本で大ヒットした「ふさ」も、2013年の取材時には装着したクルマを数多く目撃した。縄を結ったお守りのような形状で、バックミラーなどにぶら下げるこのドレスアップパーツは、いわばVIPカーの代名詞的なアイテムだ。フロントウインドウからそれが見えるだけで、まるで日本にいるVIPカーを見るような錯覚を覚える。
ほかにも、日本のカーディーラーが顧客に配る車検証入れや、整備点検時などにフロアに敷く紙のマットなどを大切そうに愛車に入れているオーナーもいた。彼は「日本製のアイテムなら何でも大好き」だそうで、細かいパーツにまでこだわっていた。彼らにとってクルマだけでなく、日本のパーツやアイテムも「憬れ」の対象なのだ。
このように、VIPカーは、今や日本を代表するカスタムスタイルのひとつとして、アメリカにも受け入れられている。近年は、日本ではなかなか新しい改造スタイルは生まれていない。車両改造に関する規制が厳しくなったり、かつてほど愛車を大がかりにカスタムするユーザーが多くないなどが要因だろう。そういった意味でVIPカーは、現時点においてもっとも最新で、もしかすると最後となるかもしれない「日本独自のカスタムカー文化」なのだ。