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日本が生んだ「VIPカー」カスタム! その波は世界にも波及中

日本が生んだクルマ文化「VIPカーカスタム」とは 

 クルマのカスタマイズにはさまざまなジャンルがあるが、中でもVIPカーは1990年代ごろから国内のカスタムカー文化に大きな影響を与えたスタイルだ。元々はセダンをベースに内外装を改造することが主流だったが、あまりの流行ぶりによりその手法は他車種にもおよび、おもにドレスアップ系カスタムにおいて一大ムーブメントを巻き起こす。さらに、近年では海の向こうのアメリカにまで伝播しており、とくに西海岸では数多くの日本車フリークに根強い人気を誇っている。

 ここでは、そんな近代ドレスアップ系カスタムの源流ともいえるVIPカーを振り返ってみよう。

「VIP=ビップ」カーの起源からの略歴

 VIPカーの起源については諸説あるが、1980年代に流行した走り屋系の改造スタイルから派生したとする説も多い。当時は、ホンダのシビックやトヨタのカローラレビンなどをベースに、派手なエアロやエンジンチューンなどを施したスタイルが大流行したが、それをセダン系車種に持ち込んだのが始まりといわれる。なお、ここでいうVIPは「ビップ」と発音するが、いわゆるVery Important Person、日本語で要人を意味するVIPは「ブイ・アイ・ピー」と発音するので念のため。 VIPカーが最初に注目を浴びるきっかけとなったのは、恐らく1988年に発売された日産の初代シーマ(Y31型)の影響も大きいだろう。当時は、バルブ景気の真っ最中で、高級車が飛ぶように売れた時代。そんなときに発売された高級セダンのシーマは、「シーマ現象」と呼ばれるほどの大ヒットとなる。 カスタムの世界は、新車が売れると改造されるクルマも増えるという法則がある。その車種に乗る人が多いほど、ほかの人と違う自分だけのスタイルを愛車に求める人が多くなる。また、中古車のタマ数も増えるため、車体を安く購入できれば改造費用も捻出しやすくなる。 当時は、例えば、「日本一速い男」と呼ばれた元レーシングドライバーの星野一義氏が手掛けるチューナーズブランド「インパル」製のシーマ用エアロなども大ヒットした。「インパル731S」と呼ばれたオリジナル車両は、外装だけでなくエンジンチューンや車体補強、専用ホイールなども装備され、まさに日産版の「メルセデスAMG」的な内容だった。VIPカーの創世期を知る人のなかには、「シーマ乗りにとって憬れの1台だった」語るほど人気が高かった。

国内への派生 熟成とどまらず

 1980年代後半頃に生まれたVIPカーはその後、さまざまな高級セダンに波及する。例えば、日産のセドリック/グロリア、プレジデント、トヨタのセルシオやクラウン、センチュリー、ホンダのレジェンドやインスパイアなど。 また、大量のカスタムパーツが売れたことでマーケットが活性化され、数多くのVIP専門ブランドが生まれ、1990年代から2000年代前半にかけて一斉を風靡する。また、2005年にトヨタの高級車ブランドであるレクサスが国内導入されてからは、LSやGSなども人気のベース車となっていく。

 発祥当時のおもなカスタムスタイルは、外装は大柄で派手なエアロ、大径のホイールやマフラーなどを装着し、車高を極端に落とした「シャコタン」スタイルだった。

 また、内装は木目や大理石調の装飾を施すなどでさらなる高級感を演出する。さらに、インパネまわりに小型モニター、トランクなどにはウーファーなどを積んだカスタムオーディオを施す車両も多く、おもにドレスアップ系カスタムの主流として進化していく。

 ちなみに、カスタムの方向性は、近年シンプルなスタイルに変化している。例えば外装のエアロでも、以前は前後バンパーを純正から交換するタイプが主流だったが、最近は純正バンパーのままで、下部などに装着するリップスポイラータイプが人気だ。時代の変遷に応じて、カスタムパーツのデザインやスタイルにも変化が見られている。

 VIPカーの大流行はセダンだけに留まらず、ミニバンやワゴン、商用車のワンボックスカー、軽自動車など、前述の通り他車種にもおよんでいく。とくに、2000年代初頭ごろから大きな人気となったミニバンのカスタムでは、トヨタ・エスティマ、ホンダ・オデッセイやステップワゴンなどをベースに、VIPカーのテイストを盛り込んだカスタムカーも生まれる。その後も、近年人気が高いトヨタ・アルファード/ヴェルファイア、日産エルグランドといった高級ミニバンにも、VIPカー的味付けを施したカスタム車両は多い。

アメリカへの伝播

 VIPカーは、日本だけでなく、アメリカにも伝播したのは前述の通りだ。筆者は実際に、2013年に西海岸を訪れ、複数のVIPカーに乗るアメリカ人ユーザーやカスタムショップを取材している。

 アメリカのVIPカー、いわゆる「US VIP」は、現地の日本車カスタム好きの間で広まった。アメリカで売られている日本車と、日本のカスタム文化を愛する人たちだ。発祥は不明だが、広く広まったのは2001年に公開され大ヒットした映画「ワイルドスピード」の影響が大きいだろう。現在も続く人気カーアクション映画シリーズだが、その第1弾では、ホンダのシビック(EG型)やトヨタのスープラ(A80型)、日産のスカイラインGT-R(R34型)といった国産スポーツカーをベースに、エアロやエンジンチューン、低い車高に派手な外装色のカスタム車両が大活躍する。 そして、それらを見て憧れた若者たちを中心に、「スポーツコンパクト」というジャンルが生まれる。2000年代初頭には、北米のアフターマーケット市場の「約6割がスポーツコンパクト系だ」といわれたほどの盛況ぶりだった。 その後、2010年代に入ると、北米におけるスポーツコンパクト市場は沈静化する。だが、子どものころにワイルドスピードやカスタムされた日本車を見て育った次世代の若者たちにより、リバイバルブームが起こった。とくに、西海岸でファッションブランドなどを手掛ける若者たちが主催した「ヘラフラッシュ」というイベントには、カスタムされたさまざまな日本車が揃い、インターネットの普及により当時日本でも話題になったほどだ。

カスタムパーツの充実が日本車を後押し 

 元々は、アメリカでもカスタムのベースとなる日本車はスポーツカーが主流だったが、やはりインターネットの普及により、日本のほかのジャンルのカスタムも現地で話題となる。そのひとつがVIPカーだ。とくにヘラフラッシュでは、車種を問わず「車高が低いクルマがかっこいい」という文化が生まれる。 道路に凸凹などが多く荒れていて、車高が低いと走りにくいアメリカではそれまであまりなかった手法だ。そういった流れに乗ったこともあり、車高が低いことも大きな特徴であるVIPカーが、アメリカでも受け入れられていく。 現地でベースとなる車種は、例えばトヨタ車の場合、レクサスのクルマが多い。セルシオは当時、20型がLS400、30型がLS430として販売されたので、現地でも中古車が多く、ベース車として選ばれやすい。また、16型アリストもレクサスのGSとして販売されたので人気が高いクルマだ。日産車では、高級車チャンネルのインフィニティで販売されたQ45は日本でも売られ、VIPカーのベースとなっていたため共通項がある。ほかにも、LS460やSC430(日本の30型ソアラ)などがベース車となることが多い。

芸術文化に国境はない

 いずれも、左ハンドル仕様とはいえ、日本車であるためVIP系のパーツが日本から手に入る。例えば、老舗ブランドの「ジャンクションプロデュース」が開発し日本で大ヒットした「ふさ」も、2013年の取材時には装着したクルマを数多く目撃した。縄を結ったお守りのような形状で、バックミラーなどにぶら下げるこのドレスアップパーツは、いわばVIPカーの代名詞的なアイテムだ。フロントウインドウからそれが見えるだけで、まるで日本にいるVIPカーを見るような錯覚を覚える。

 ほかにも、日本のカーディーラーが顧客に配る車検証入れや、整備点検時などにフロアに敷く紙のマットなどを大切そうに愛車に入れているオーナーもいた。彼は「日本製のアイテムなら何でも大好き」だそうで、細かいパーツにまでこだわっていた。彼らにとってクルマだけでなく、日本のパーツやアイテムも「憬れ」の対象なのだ。

 このように、VIPカーは、今や日本を代表するカスタムスタイルのひとつとして、アメリカにも受け入れられている。近年は、日本ではなかなか新しい改造スタイルは生まれていない。車両改造に関する規制が厳しくなったり、かつてほど愛車を大がかりにカスタムするユーザーが多くないなどが要因だろう。そういった意味でVIPカーは、現時点においてもっとも最新で、もしかすると最後となるかもしれない「日本独自のカスタムカー文化」なのだ。

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