スバルの歴代軽モデルのなかでもっとも走りがホットだった
2012年に惜しまれつつ軽自動車の自社生産を終了したSUBARU。名車として語り継がれている、1958年に登場したスバル初の市販乗用車「スバル360」も軽自動車であった。そのこだわりのメカニズムや扱いやすさ、軽自動車とは思えないほどの走行性能の高さで、生産が終了してまもなく10年を迎えようという今もスバル製軽自動車の人気は高い。
軽自動車にもさまざまなモデルを生産してきたスバルだが、歴代モデル中でもっとも走りがホットだったのが1992年に登場したヴィヴィオだ。軽自動車の規格が550ccから660ccとなり、実質ヴィヴィオの前モデルとなるレックスは、この規格変更時に後期型となり、直列2気筒から一気に4気筒エンジンを搭載。
ヴィヴィオには直4エンジンを搭載
ヴィヴィオはこのEN07と呼ばれる660cc直列4気筒エンジンを継承した。軽自動車の4気筒モデルをラインアップするメーカーはスバル以外にもあったが、主力はあくまで3気筒のモデルがほとんどだった。そんななか全車4気筒エンジンを搭載し、スポーツモデルにはターボではなくスーパーチャージャー過給という独創性。これに加え、スバルの軽自動車ならではの4輪ストラット式独立懸架サスペンションを採用し、乗用車顔負けの走りが特徴であった。
当時のセリカよりも速いタイムを叩き出していた
走りの実力はスペック上だけでなく、なんと1993年には若手韋駄天として名を馳せていたコリン・マクレーを登用しWRCサファリに参戦したことでも知られる。モータースポーツファンの間では、当時ワークスのトヨタ・セリカを上まわるタイムを出していたことも有名な話だ。
日本からもトップラリーストの石田正史が参戦。地元ケニアのパトリック・ジルによりクラス優勝を果たしたヴィヴィオは、名実ともにその走りのポテンシャルの高さと過酷な環境下での耐久性の高さを実証したのだ。
ラリーマシンのベースモデルはスポーツグレード最高峰の「RX-R」
このWRCに参戦したヴィヴィオは、スポーツグレード最高峰の「RX-R」というグレード。ボンネットバルジやバンパーにビルトインされた丸形のフォグランプを見れば、まさに小さなインプレッサWRXといった印象であった。搭載されるパワートレインはDOHC直列4気筒スーパーチャージャーに5速MTという仕様。最高出力は64ps/7200rpm、最大トルクは10.8kg-m/3600rpmと、他メーカーの軽スポーツモデルと互角のスペックを誇っていた。
チェーン式の「リニアトロニックCVT」の礎になったECVT
RX-RのほかにもSOHCスーパーチャージャー仕様のGX系もあり、こちらには2ペダルの無段変速機「ECVT」が組み合わされていた。このECVTは、当時のサンバーをはじめ、リッターカーのジャスティにも設定されていた。
また、日産マーチなどにもOEM供給されるほどの最先端トランスミッションとして注目を集めた。スチールベルト式でいわゆる「ゴムバンドフィール」とよばれる独特のフィーリングや2ペダルながらクリープ現象の発生しない電磁クラッチなど、慣れやコツが必要ではあったが、現行スバル車のほとんどに搭載されるチェーン式「リニアトロニックCVT」の礎になったといえる技術だ。
大人4人が余裕で乗れる室内空間
また、スバル360のDNAを受け継いでいると感じさせるのが、全長 3295mm、全幅1395mm、全高1385mという、見るからに小さいボディでありながら、大人4人が余裕で乗れる室内空間だろう。これには驚かされる。
筆者も当時よく乗る機会があったのだが、身長178cmの自分がこのクルマに収まっていたのか? と思ってしまうほどだ。実際に運転席に収まると、まぎれもなく軽自動車ではあるが、タイトさは感じることはなく、むしろ軽量なボディにキビキビ回るエンジン、面白いほどよく曲がる足まわりに舌を巻いた。
幅広くグレード展開がされてたのも特徴
ヴィヴィオはRX-Rのようなスポーツモデルから、軽貨物仕様のバンモデルまで幅広くグレード展開がされていたが、特徴的な部分としてさまざまな特別仕様車の設定が挙げられる。
代表的なモデルは、レトロ調のエクステリアを纏い、他メーカーにもおよぶレトロ調ブームの火付け役ともいえる「ヴィヴィオ ビストロ」。さらに、歴代スバル車で唯一のオープントップモデル「ヴィヴィオ T-TOP」など、コンパクトなボディに愛らしいエクステリアを組み合わせたモデルが多数存在した。