生産終了の名バイク「ヤマハSR400」 限定版の争奪戦が今……
また1台、1978年のデビューからじつに43年という長い歴史を持つ稀代の名車が、惜しまれながらこの9月限りで生産終了を迎えようとしています。その名はヤマハSR400。すでに最後のモデルとなるファイナルエディションが今年の1月から発売されていますが、計画台数の6000台はあっという間に完売。定価60万5000円〜のところを、限定版のリミテッドでは200万円台のプレミア価格で取引されることもあり、激しい争奪戦が繰り広げられる事態となっています。
売れているのになぜ生産終了するのか
もともと2020年の401cc以上の国内販売ランキングでも、2450台(二輪車新聞調べ)で2位を獲得するなど人気が高い車種ではあったのですが……。
そもそもそんな人気車種がなぜ生産終了とならなければならないのか。じつはこの10月から継続生産車両にも適用されるABS義務化が最大の理由なのです。
SRのリヤブレーキに使われるドラム式は、金属ロッドで作動させる機械式のため油圧式で制御するABSを組み込むには根本的な変更が必要となります。それにABSではブレーキ本体だけでなく、油圧を制御するボックスのようなユニットを車体側に収める必要もあり、スリムなSRにはそのスペースもほとんどありません。
なにしろ2009年型で排ガス規制のためにキャブレターからFI(フューエルインジェクション)に切り替わったときも、かなり苦労して補器類を収めているのでもうフレーム内はパンパンなのです。その排ガス規制にしても、来年の10月にはさらに新しい規制の適用が控えています。 歴代最高の厳しい内容を誇ると言われる新規制では、空冷はともかくもはや半世紀近い昔に設計されたエンジンで対応するにはかなり難しい。結局のところ、これら新規制に対応するにはエンジンから車体までフルモデルチェンジとなる大がかりな改良が必要。そうなったら、たとえ名前がSRのままであっても、それはもうSRであってSRではないと、ヤマハも判断した……ということなのでしょう。
43年間かわらずに親しまれたフォルム
なにしろ、SR400の人気を支えてきたのはデビュー以来43年間、細部以外ほとんど変わらなかったその姿。空冷フィンの刻まれた味わいある造形のエンジンとそこから伸びる1本のメッキマフラーが魅せるシンプルで美しい輝き、現代においても始動方式はキックのみという潔さ、車体もセミダブルクレードルの鉄フレームにリヤ2本サスと基本に忠実。そして走り出すと身体に響く、単気筒ビッグピストンならではの心地よい鼓動……。
コクピットで動くアナログメーターの針の動きも、まるでメカがオイルの通った生き物であるかのような雰囲気を醸し、まさに電子制御に包まれた最新設計マシンではけっして味わえないシンプルを極めたかのようなオートバイの原点とも呼べる姿がそこにあったからです。
かつてはホンダやスズキも打倒SRを狙った単気筒クラシックモデルを送り出しましたが、結局はSRの「変えないブレない姿」の前に勝つことはできませんでした。
揺るがないベースあってのカスタム素材
さて、そんな変わらないところが最大の魅力であるはずのSRが、あえて姿を変えてしまうカスタム素材として人気があったのもユニークと言えばユニークだったところ。定番と言えるのが、キャブトンマフラーなどに変えてノートンやBSAを目指した、よりブリティッシュ系の王道クラシックスタイルを追及したもの。 さらに、そこから進めてローハンドルやセパレートハンドル、シングルシートやなかにはビキニカウルも付けて速さを追及したカフェレーサースタイル。ほかにもスーパートラップマフラーで鼓動感をより強調してみたり、シンプルがゆえに2000年前後にはTW200ブームの余波で外装を極限まで取り払ってスカスカにする、通称“スカチューン”カスタムしたSRが流行ったのなども記憶に残るところです。
しかし、SRカスタムの歴史を振り返ってみると、どれもオートバイとしての原点を目指していくようなものばかり。結局のところはベースに流れるブレない部分が支持されたからではないでしょうか。
ともあれ、多くの人に愛されてきたSR400は、その姿を保ったまま歴史を閉じようとしています。変わらぬスタイルでここまで来るのはけっして平坦な道ではありませんでした。排ガス規制の前に過去2回も一旦生産中止になった時代もあります。