今だから話せる試乗車でヒヤッとした経験
われわれのような自動車専門媒体で働いているメンバーは、自動車メーカーなどからクルマをお借りして取材に出かけることが多い。それはワインディングや街乗りの試乗のときもあれば、サーキットやテストコースでのフルテストもある。ときには試乗車でヒヤッとした経験も……。
ヤンチャをしすぎて、オーバースピードでスピンしかけたり、曲がりきれなくてアンダーを出したというったヒューマンエラーもちろんゼロではなかった。しかし、ここではおもにクルマ側、ハードの問題でヒヤッとした例をいくつか教えてほしいというリクエストが編集部からあったので、センパイや同業者にもいろいろ話を聞いてみた。
ビックリするほど止まらなかった某車
あの有名なRRスポーツカーといえば、某巨匠の影響で「後ろから巨人の手でいきなりつかまれたような強力なブレーキ」というイメージがあった。個人所有の車両を借りたとき、街なかで危険回避のためにちょっと強めのブレーキを踏んだら、簡単にフロントタイヤがロック!
そのスポーツカー用の上等なタイヤでなかったこともあるが、リヤヘビーのRRは荷重移動も考えずにポンと強いブレーキを踏むと、これほど利かないとは予想外。
滑り出しが読めないミッドシップ車
あるメーカーのミッドシップモデルを借りてテストコースで高速(?)スラロームをやってみると、とっちらかって収拾がつかない事態に……。
その車はエンジンとギヤボックスをFF車から流用したために、車高の割にリヤまわりの重心が高い。そのうえボディ剛性が不足し、リヤサスのジオメトリーにも難があり、リヤタイヤのキャパシティも足りなかったため、位相遅れのような症状が出て、挙動が読みづらくかなりデンジャラスなクルマだった。
真っ直ぐ走らない
平成以降のクルマは、真っ直ぐ走るなんて当たり前のことと思っているかもしれないが、昭和のクルマは最高速テストなどをやるとハンドルがまっすぐでもクルマがブレるのがざらにあった。直進安定性はクルマの運動性能の中でもっとも重要な性能のひとつで、真っ直ぐ走るというのは素晴らしい技術だったのだ。
そうした直進安定性が平成になっても心許なかったクルマといえば、フェラーリの348(前期型)。フェラーリは308や328もフロントの接地感が乏しいクルマだったが、1989年にデビューした348も直進安定性があまり良くなかった。路面がフラットなテストコースではましだったが。
ブレーキが一発でフェード
ヒヤッとした思いといえば、動力性能に対しブレーキがプアだったクルマたちもあった……。3BOXセダンのスポーツ仕様。筑波サーキットと谷田部でのテストの帰り道、常磐道で軽くダッシュし、三郷の料金所でブレーキを踏んだら、その一発でブレーキがフェード。
料金所のゲートをオーバーラン(前方にクルマがいなくて良かった)! ローターからモクモクと煙が上がり、料金所の係員に「オーバーヒートしているんじゃない?」と心配されたことも(汗)。
転倒
軽自動車でジムカーナのテストをやったとき、サイドターンで転倒したこともあった。運転席が外側になる左のサイドターンで転がってしまった……。車体が軽く、ちょっと車高もあって、インサイドが軽くなる左ターンでサイドブレーキを引いたために起きたアクシデントだった。
今の軽自動車もハイトワゴンが多いので、台風の季節などはちょっぴり転倒が心配!? ちなみに転がった軽自動車は、WRCでの転倒シーンのように、撮影スタッフが人力で引き起こした。
その他
ヒヤヒヤしたことではないが、予想外の思い出は、ポルシェ928のワンダリングが思ったよりも酷かったこと。タイヤサイズはたしかフロントがR32GT-Rと同じ225/50ZR16で、リヤは245/45ZR16。今ではごく普通のサイズだが、当時245は太いタイヤで、東名高速や中央道などの荒れた路面を走ると、けっこう轍を拾って、車体がふらついた。
ほかにも谷田部での最高速テストのときだった。フェラーリ・テスタロッサがバンクに入った瞬間、ボディがねじれて(?)リヤガラスにひびが入ったことも……。
あのころに比べれば、タイヤもボディも電子制御も格段に進化し、クルマ側の問題でヒヤヒヤするケースはほとんどなくなった。だが、ドライバーもクルマの技術に合わせて進歩しないと、ヒヤッとする経験はなくならないかもしれない。自動運転が定着するまでは、ドライバーも精進し続けることが肝要だ。