高性能2L自然吸気4ドアセダンとして「ユーロR」が登場
アコード&トルネオ「ユーロR」は、H22A型2.2L直4DOHC VTECを搭載。最高出力220ps/7200rpm、最大トルク22.5㎏-m/6700rpmのスペックが与えられ、いかにもホンダらしい高回転エンジンを搭載する4ドアセダンの登場に、ホンダ党に限らず多くのクルマファンが沸き立った。
ユーロRはその名に恥じず、専用サスペンションによる15mmのローダウンと軽量16インチホイール+205/55R16サイズのハイグリップタイヤを装備。さらに高剛性ボディとブレーキも強化され、高い動力性能に合わせた操縦安定性が高められた。
また、インテリアにはレカロ製バケットシートやMOMO製ステアリング、アルミ合金製シフトノブやホワイトメータパネルも備わり、走りのムードを高める装備がふんだんに奢られていた。そしてムードといえば、エンジンヘッドカバーが赤色に塗装されるなど、ユーザーが「欲しかったのはこれだよ!」と言わんばかりの仕上げを満載。スバル・インプレッサWRXや三菱ランサーエボリューションなどの2Lターボ勢が全盛のなか、ホンダらしいスポーツセダンとしての地位を確立した。
サーキットの雄である「タイプR」と差別化された「ユーロR」の存在
当時を振り返ると、クルマ好きの間では「なんでタイプRじゃないんだ!」「ユーロRの意味がわからん!」など、否定的な意見も多かった。だが、タイプRはNA1型NSXの登場以降、サーキットでのタイムを重要視する傾向が強まっていった。 ゆえに実用性重視の4ドアセダンをベースにしたアコード&トルネオに、レッドバッヂを付けることは「タイプR」のブランディングを損ねることになる。実際に発売当時のカタログには、サーキットを主戦場にするようなキャッチコピーの記載はなく、あくまでも街乗りに重点を置いたクルマとしてタイプRと区別されたというワケだ。
ちなみに、1998年6月にアコードタイプR(CL3型)が欧州で発売されているが、欧州と日本とで事情が異なるため日本未導入となった経緯は不明だ。
欧州では「タイプR」が存在しただけに、「ユーロR」というネーミングが少しややこしかった。だが、6代目プレリュードに設定された「タイプS」を名乗り「欧州プレミアムブランドに負けないスポーツセダンです!」と打ち出せば、もっと存在感を示すことができたのかもしれない。
そして2001年にはSiRに「ユーロ・パッケージ」が設定され、AT車にもエアロを纏った仕様を追加。2002年にはアコード&トルネオユーロRに特別仕様車「ユーロR・X」を発売。このモデルは専用色レカロ社製バケットシートや大型スポイラー、チタン製シフトノブとプライバシーガラスが標準装備され、次期CL型アコードユーロRへとバトンタッチした。
各モデル発売時の東京地区希望小売価格は、SiR-Tが214.8万円、ユーロRが253.3万円、ユーロR・Xが255.3万円となっていた。
K20A型エンジンへと刷新! 排気量ダウンも200psを発揮
2002年10月、アコードは7代目のCL型へとフルモデルチェンジ(トルネオが一代限りで絶版)し、「ニュー・クオリティ・ツアラー」をコンセプトに登場した。もちろん「ユーロR」の設定は継続され、最高出力200ps/8000rpm、最大トルク23.7kg-m/6000rpmを誇るK20A型2L直4DOHC i VTECを搭載した。 ボディは当時のセダンとしてトップレベルの空力性能CD値0.26を達成。ストラットタワーバーの追加や、曲げ剛性やねじり剛性といった静剛性だけでなく、動剛性も追求した高剛性ボディによって操縦性や安定性、そして快適性をそれぞれ向上させた。 またサスペンションは先代モデルからのフロントダブルウィッシュボーン式、リヤ5リンク・ダブルウィッシュボーン式を継承。スプリングやスタビライザー、ブッシュ類をよりハードなものとして215/45R17タイヤを履きこなした。
ライバルは欧州プレミアムセダン! 速さはもちろん上質な走りが自慢
このユーロRの走りは、まさに日本が誇るスポーツセダンだ。ターボや4WDではないために絶対的な速さでは評価できないが、欧州のプレミアムモデルにも負けない上質な走りを誇った。伸びやかに吹き上がるエンジンは世界中でもホンダだけではないか? というほどアクセル操作に応えてくれて、シフト操作の小気味よい感覚は、両手両足を駆使して走るMT車の楽しさに満ち溢れていた。
細かな路面変化をしっかりとドライバーに伝えるのに、快適な乗り心地。FRに負けない回答性とFFならではの直進安定性の高さ。オーバーに言えば、道路の白線を踏んだことがわかるほど情報を正確にドライバーへ伝達しつつ、荒れた路面でもキレイにギャップをいなしながらドライブしていて快適で安心できる懐の深さも兼ね備えていた。2ドアのスポーツモデルほど尖っておらず、4ドアの日常使いで利便性を備えながらも操る楽しさを感じさせる、近所の買い物にもたまの遠出でも楽しい1台であった。
実際に購入を検討していた知人のお供で試乗車を何度か運転したが、いまでも印象深い1台だ。それでもでもその知人はユーロRの購入を見送った。悩みつくして他車を選んだ理由は、「クルマとしてはすごく良いと思うけど、ホンダ車に見えない」だった。ユーロRはエアロパーツやハニカムメッシュのフロントグリルなど、他仕様とは差別化が図られていたが、7代目アコードはシンプルで保守的といえるデザインに不満があったようだ。 走りも良く乗り心地にも優れ、4ドアセダンとしての居住性も十分なもの。新設計のヒンジによってトランクルームも使いやすく開口部も広かった。4ドアセダンのMT車としては極上であったが、デザインの重要性を改めて勉強させられたのが、このユーロRであった。
■2代目ホンダ・アコードユーロR(CL7型)主要諸元
〇全長×全幅×全高:4665mm×1760mm×1450mm
〇ホイールベース:2670mm
〇トレッド 前/後:1510mm/1515mm
〇車両重量:1390kg
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:5.2m
〇室内長×室内幅×室内高:1940mm×1485mm×1185mm
〇エンジン: K20A型直列4気筒DOHC
〇総排気量:1998cc
〇最高出力:220ps/8000rpm
〇最大トルク:21.0㎏-m/6000rpm
〇サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン式/5リンク・ダブルウィッシュボーン式
〇ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
〇タイヤサイズ 前後:215/45R17