「タイプR」にも負けないホンダ渾身のスポーツセダン「ユーロR」
F1などで培ったレーシングテクノロジーを注ぎ込み、日本ではシビックやインテグラ、NSXに設定された「タイプR」シリーズ。その陰でタイプRに匹敵するポテンシャルを備えながらも、格下に見られがちな不遇の名車アコード&トルネオ「ユーロR」を振り返りたい。
北米と日本での市場ニーズが異なるなか3ナンバー化された5代目アコード
バブルも終焉を迎えた20世紀末、北米でもっとも売れる乗用車のひとつとなったアコード。そのこと自体は喜ばしいことであったが、日本と北米向けで車両の企画開発をどちらの市場に合わせて優先するのか? という難題がホンダに突きつけられていた。結果的として、1993年9月に発売された5代目アコード(CD型)がワールドワイドな3ナンバーのボディサイズ(全長4675mm×全幅1760mm×全高1410mm※セダン)で誕生。
6代目アコード&初代トルネオに5速MT仕様の「SiR-T」を新設定
ホンダではこのような新しい開発方式を開拓できたことで、1997年9月発売の6代目アコード(CF型/CL型)では、仕向地に合わせてボディサイズを作り分け、日本仕様のアコードと兄弟車のトルネオは5ナンバーサイズでデビューした。
そしてよりスポーティで上質さを求めるユーザーニーズに応えるように、SiR-Tに代わって2000年6月にアコード&トルネオに「ユーロR」が登場する(AT仕様のSiRは継続販売)。
高性能2L自然吸気4ドアセダンとして「ユーロR」が登場
アコード&トルネオ「ユーロR」は、H22A型2.2L直4DOHC VTECを搭載。最高出力220ps/7200rpm、最大トルク22.5㎏-m/6700rpmのスペックが与えられ、いかにもホンダらしい高回転エンジンを搭載する4ドアセダンの登場に、ホンダ党に限らず多くのクルマファンが沸き立った。
また、インテリアにはレカロ製バケットシートやMOMO製ステアリング、アルミ合金製シフトノブやホワイトメータパネルも備わり、走りのムードを高める装備がふんだんに奢られていた。そしてムードといえば、エンジンヘッドカバーが赤色に塗装されるなど、ユーザーが「欲しかったのはこれだよ!」と言わんばかりの仕上げを満載。スバル・インプレッサWRXや三菱ランサーエボリューションなどの2Lターボ勢が全盛のなか、ホンダらしいスポーツセダンとしての地位を確立した。
サーキットの雄である「タイプR」と差別化された「ユーロR」の存在
当時を振り返ると、クルマ好きの間では「なんでタイプRじゃないんだ!」「ユーロRの意味がわからん!」など、否定的な意見も多かった。だが、タイプRはNA1型NSXの登場以降、サーキットでのタイムを重要視する傾向が強まっていった。
ちなみに、1998年6月にアコードタイプR(CL3型)が欧州で発売されているが、欧州と日本とで事情が異なるため日本未導入となった経緯は不明だ。
そして2001年にはSiRに「ユーロ・パッケージ」が設定され、AT車にもエアロを纏った仕様を追加。2002年にはアコード&トルネオユーロRに特別仕様車「ユーロR・X」を発売。このモデルは専用色レカロ社製バケットシートや大型スポイラー、チタン製シフトノブとプライバシーガラスが標準装備され、次期CL型アコードユーロRへとバトンタッチした。
K20A型エンジンへと刷新! 排気量ダウンも200psを発揮
2002年10月、アコードは7代目のCL型へとフルモデルチェンジ(トルネオが一代限りで絶版)し、「ニュー・クオリティ・ツアラー」をコンセプトに登場した。もちろん「ユーロR」の設定は継続され、最高出力200ps/8000rpm、最大トルク23.7kg-m/6000rpmを誇るK20A型2L直4DOHC i VTECを搭載した。
ライバルは欧州プレミアムセダン! 速さはもちろん上質な走りが自慢
このユーロRの走りは、まさに日本が誇るスポーツセダンだ。ターボや4WDではないために絶対的な速さでは評価できないが、欧州のプレミアムモデルにも負けない上質な走りを誇った。伸びやかに吹き上がるエンジンは世界中でもホンダだけではないか? というほどアクセル操作に応えてくれて、シフト操作の小気味よい感覚は、両手両足を駆使して走るMT車の楽しさに満ち溢れていた。
実際に購入を検討していた知人のお供で試乗車を何度か運転したが、いまでも印象深い1台だ。それでもでもその知人はユーロRの購入を見送った。悩みつくして他車を選んだ理由は、「クルマとしてはすごく良いと思うけど、ホンダ車に見えない」だった。ユーロRはエアロパーツやハニカムメッシュのフロントグリルなど、他仕様とは差別化が図られていたが、7代目アコードはシンプルで保守的といえるデザインに不満があったようだ。
■2代目ホンダ・アコードユーロR(CL7型)主要諸元
〇全長×全幅×全高:4665mm×1760mm×1450mm
〇ホイールベース:2670mm
〇トレッド 前/後:1510mm/1515mm
〇車両重量:1390kg
〇乗車定員:5名
〇最小回転半径:5.2m
〇室内長×室内幅×室内高:1940mm×1485mm×1185mm
〇エンジン: K20A型直列4気筒DOHC
〇総排気量:1998cc
〇最高出力:220ps/8000rpm
〇最大トルク:21.0㎏-m/6000rpm
〇サスペンション 前/後:ダブルウィッシュボーン式/5リンク・ダブルウィッシュボーン式
〇ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
〇タイヤサイズ 前後:215/45R17