丁寧かつ軽やかな加速フィールにうっとりする
長い伝統や顧客からの信頼は、時に「変わる」ことへの障壁となる。代々の杜氏が門外不出の日本酒づくりを守っている酒蔵。その行程にAIを導入し、イノベーションを起こそうと試みた「南部美人」。教育指導方針やカリキュラムをガラリと変え、東大合格者数を驚異的に伸ばした私立高校。その成功は、さまざまな障壁を乗り越えて変化を果たしたからこそ、手に入れたもののはずだ。
Sクラスのルーツは1951年のW187にまで遡ることができる。その信念として、創始者のひとりであるゴットリーブ・ダイムラーの言葉「最善か無か」は、70年経った今もメルセデス・ベンツの中核をなす哲学であり、フラッグシップモデルたるSクラスはとくにその重圧を背負う。だから8年ぶりのフルモデルチェンジといえども、それほど大きく変わってはいないのではないか。そう思いながら対面した。
初出:オンリーメルセデス 2021年10月号 Vol.205
伝統と最新をうまく融合させた新たな提案
それがどうだろう、Sクラスらしい威厳はそのままに、受ける印象は今までになくクリーンで先進的。アスリートのような清々しささえ感じさせる。「現代に求められるラグジュアリーを再定義した」というのがなるほどと腑に落ちた。
■取材車両のプロフィール
取材車両はラインアップ中もっとも高額なロングホイールベースのガソリンモデル。オプションとして、エアロパーツや20インチホイール、スポーツブレーキなどをセットにした「AMGライン」(99万8000円)、リヤガラス&後席サイドウインドウの電動ブラインドや後席エンタメ、助手席後席にエグゼクティブな機能を備える「リヤコンフォートパッケージ」(125万円)を装備。
さらに、ドライバーが見ている実際の路上に矢印を表示しリアルでわかりやすい誘導を行う「ARヘッドアップディスプレイ」(41万円)、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニックの作動状況などを3Dで表示する「3Dコックピットディスプレイ」(13万円)が装着されている。
目に見えるところでとくに変わったのが、メルセデス・ベンツとして初採用された格納式のアウタードアハンドル。エッジやラインを極力廃したというボディフォルムは、つるりとしてふくよかで、「キャットウォークライン」と呼ばれる繊細なラインが優美さを引き立てている。
ヘッドライトには、片側130万画素でプロジェクションマッピングができるほどの精密度という、デジタルライトが本物の先進感。リヤにまわれば、無数に折り重なるLEDが幻想的とさえ言える光を放つ、クリスタルピンデザインがさりげなくゴージャスだ。アウタードアハンドルは、これまでのようにネイルをした女性でも使いやすいのかどうか心配したが、握りやすさは変わらなかった。
そして「デジタルとアナログの調和」を意図したというインテリアは、確かにスイッチ類が少なくなり、大きなディスプレイがその役割を吸収していた。
まるも’s CHECK!
新デザインのステアリングは直感的に使えて便利12.8インチの有機ELメディアディスプレイが存在感を放つインパネ。ナビや空調、車両情報などさまざまな機能が集約されているが、見やすくスタイリッシュだ。ステアリングにはインテリジェントドライブの作動スイッチなどが備わり、運転中であっても直感的に使える。
そのシンプルさに感心しつつ、ふっくらと豊かなシートに身を預けたとたん、全身の力が引いていくような包まれ感に、一瞬で幸せな気分になる。
まるも’s CHECK!
後席助手席側フットレストでゆったり足が伸ばせる後席助手席側にだけ備わる「フットレスト付きエグゼクティブシート」は、首から頭をふっくらと支えるクッションをはじめ、足をゆったり伸ばして身体を寝かせることができ、至福の空間。オプションで日本初のリヤエアバッグが装備され、安全性も世界一レベルだ。